アクアリウムの維持で最も恐れるべきは「停電」かと思います。
いざ停電が起きた時、アクアリストの皆様は飼育している熱帯魚を守ってあげられますか?
不足している電池や大切な電力を熱帯魚の飼育のために使ってあげられますか?
この記事では、停電時に水槽内で起こる変化や熱帯魚を守るために最低限やっておくべきことについて、考慮が必要な内容を御紹介させていただきます。
はじめに -自然災害の多い日本-
日本は温帯に位置しており、四季があることで様々な農作物にも恵まれた豊かな国です。
また、海に目を向ければ寒流と暖流が混じり、日本海や深い海溝があることによる豊富な海産物にも恵まれた国と言えます。
しかし、その日本の恵まれた環境は、台風、地震、洪水、雨不足…という様々な自然災害と隣り合わせであるということも忘れてはいけません。また、近年はゲリラ豪雨や長期の大雨など、多くの水害も増えている傾向であることは忘れてはいけません。
世界で最も地震が多い国の一つと言える日本では、毎年の様にどこかで震度5以上の地震が観測され、被害が大きい場合にはインフラの復旧までに多くの日数を要します。
また、梅雨の時期には豪雨による洪水、秋の台風シーズンには多くの台風が日本の上を通過していくため、これらの災害によっても電気が寸断されることが多々あります。記憶に新しい所では、2019年の台風で関東の広い範囲で大停電が起き、復旧までに数か月を要しました。
また、雨に関係する事では、落雷による電力網の被害によって停電が発生することもあります。
最近はあまり頻繁に起こりませんが、以前は雨不足によるダムの水不足で水力発電が行えず、計画停電を行った経験も記憶に残っています。
このように、自然災害と隣り合わせである日本でアクアリウムを楽しむということは、常に停電による電力の停止を見据えて準備をしておかねばならないということなのです。
現代のアクアリウムは、電力の上に成り立っていると言っても過言ではありません。災害が起きてから行動するのではなく、災害はいつ来るかわからないという意思で、アクアリムの災害対策と災害時の維持・管理を検討していく必要があります。
停電がアクアリウムに与える影響
停電にもいろいろな種類があります。
落雷などによって瞬間的に電力がストップする場合、5分程度で復旧するような一時的な停電の場合、そして数日から数カ月続くような長期の停電です。
瞬間停電や数分の停電ではアクアリウムが被害を受ける可能性が少ないですが、長期の停電になった場合には次に紹介するような弊害が生まれます。
フィルターのストップによる生物濾過の停止
水槽の中の飼育水は、外部フィルターや上部フィルターなどのフィルター内に存在するバクテリアにより、アンモニアや亜硝酸が比較的無害な硝酸に分解されていきます。
しかし、フィルターはモーターによって駆動されているケースがほとんどですので、電力が無くなるとフィルター類は動力を失いストップしてしまいます。
そのため、生物濾過能力が不足して、魚たちがアンモニアや亜硝酸の濃度が高い危険な飼育水の中で生活をすることになってしまいます。
勿論、水槽の中にもバクテリアが住み着いていますが、外部フィルターの中に比べればバクテリアの量が少ないため、処理能力が足りません。
フィルターの停止 (生物濾過の停止) は、アクアリウム維持には致命的になり得る重大なリスクと言えます。
エアレーション不足による酸欠状態
フィルター類の停止という観点では、エアレーションによる酸素供給の停止も起こります。
エアレーションは空気を送り込む「ブクブク」でも問題はありませんが、アクアリストの皆様の多くは、外部フィルターや上部フィルターから戻ってくる水によって水流とエアレーションを得ている場合が大半かと思います。
そのフィルターが止まればエアレーション不足によって溶存酸素の供給が間に合わなくなってしまいます。
ベタの様にラビリンス器官で呼吸を維持できる魚もいますが、そのような魚は少数派で、多くの熱帯魚がエラ呼吸による呼吸で酸素を取り込みます。
特に夏場は溶存酸素が水中から抜けやすくなるので、より注意が必要になります。
ライトが使えないことによる水草育成不良
近年のアクアリウムの人気ジャンルに「水草水槽」があります。
国内外の美しい水草を水槽の中で育てて、自然の中を再現するような水景は、アクアリウムを趣味にしている方以外も魅了する美しい存在です。
しかし、その水草水槽も高出力のLEDによって水草を育てることで成り立っているという面があります。
勿論、耐陰性の水草であればライトの出力が低くても十分育ちますが、ロタラ等の強い光を必要とする水草には、それなりのライトを当てないといけません。
電力の停止により、それらの水草育成に影響が出ることは否めません。
ライトが付かないことによって光合成が出来ないため、枯れてしまうような水草もあるかもしれません。
ただし、水草の場合にはバケツに入れて直射日光に当てれば、育成不良を最小の被害に抑えられる可能性もあります。
冬場の水温維持が困難
熱帯のアマゾン川が原産の熱帯魚を日本で年間を通じて飼育できるのは、水槽用ヒーターという強い味方が存在するためです。
このヒーター無しでは、熱帯魚たちは日本の冬は乗り切れません。
寒い地方では湖や池に氷が張るくらいの気温、つまり水中は数℃の世界になりますので、熱帯魚たちは生命維持ができません。
日本原産のメダカや金魚などは寒い時期でも生き抜きますが熱帯魚は不可能です。
冬場に停電が起こった場合には、いかに水温を下げないかという観点で努力が必要です。
停電時の水槽の管理方法は?
では、実際に停電が起きてしまった時、どのような管理方法をすべきなのか?について、私の考えられる範囲で記載しておきたいと思います。
私自身、2日以上続く停電を経験したことが無いので、あくまでも対策を考えた知識として御紹介させていただきます。
少ない電力で動くブクブクを活用
溶存酸素を確保するために、少ない電力 (乾電池) でも動くブクブクを用意しておくことを強くお勧めします。
夏の炎天下の中に、避難させた熱帯魚を放置することはできないので必ず屋内で管理することになると思います。しかし、屋内は風が吹かないので、溶存酸素が水中へ溶け込むための手助けがありません。
そのため、最低限電池で動くブクブクを用意しておきたいところです。ブクブクの消費電力を確認して、数日はブクブクを維持できる乾電池を確保しておきましょう。
餌の量は必要最低限にする
これは実は大事な事です。
餌の量は必要最低限、または隔日で与えるという対応が必要です。
上で紹介した通り、電力が止まればフィルターが止まるため、生物濾過を利用することができません。
そのため、食べ残しの餌や熱帯魚の糞が飼育水の中に溜まりやすく、熱帯魚にとって害となるアンモニアや亜硝酸の増加を誘発してしまいます。
熱帯魚自身、避難水槽の中では餌を食べないこともありますし、熱帯魚自身は数日食べなくても生命維持が出来るので、餌の与える量はかなり調整がきくものだと思います。
二酸化炭素のバルブは閉めること
水草の育成用に二酸化炭素を使用されている方も多いかと思います。
アクアリウム用の二酸化炭素はガスボンベ式で供給されるため、電力が無くても二酸化炭素の供給が出来てしまいます。
しかし、フィルターが止まった状態で溶存酸素が少ない時に二酸化炭素を供給すると、魚たちが二酸化炭素によって酸欠状態になり可能性が高いです。
そのため、水草育成に二酸化炭素を使用されている方は、停電中は供給を止めるべきです。
換水はできる時には必ず行う
停電が起こるような災害では、同時にライフラインである水道水も止まってしまっている場合もあります。
そのような時に熱帯魚の水替えのために大事な水を使うことは避けたいところです。
しかし、ある程度自由に水道水が使える時には、フィルターが回っていないことを補うために、2日に一度くらいは水槽の水の1/4から1/3位を交換してあげてください。
もし、近くに綺麗な水源 (河川) があれば、問題無いことを確認したうえで河川の水を流用することも視野に入れたほうが良いかと思います。河川の水を使うことで病気の発生などの心配があるかと思いますが、フィルターが使用できない状況下では命の維持を最優先にすべきだと思います。
意外と気付かない夏の高水温
「熱帯魚だし、夏は少し暗い水温が上がっても大丈夫だろう」と思うのは大間違いです。
熱帯魚と言えども、34℃を超えるような水温になれば命の危険にさらされます。
特に最近の日本の夏は気温が40℃近くまで上がり、冷房をしていない室内は40℃以上に気温が上がります。
そのため、そのような室内でクーラーなしに熱帯魚を飼育すると、高水温が原因でお星様になる可能性が高いです。
冬はヒーターが無いといけないという認識はあるのですが、実は夏は夏で水温が上がりすぎることに注意が必要になります。
各種備品はストックを用意しておく
私も実施していることですが、各種備品のストックは1か月分くらいは用意しています。
例えば、カルキ抜きは常に1本の備品がありますし、餌も1ケースの備品があります。
また、頻繁に変えるフィルターのウール濾材もストックを必ず用意しています。
いつ何時どのような災害に見舞われるかわかりませんので、用意できるものは1か月分の備品がある方が安心です。
長期停電は覚悟しなければならない時でもある
長期の停電が起きた場合、それは残酷な言い方になってしまうかもしれませんが、アクアリストが覚悟をしておかねばならない時でもあります。
電力が無ければ、アクアリウムは維持できませんし、日本という国で熱帯魚を飼育する事は叶いません。
長期の停電となると、正直、自分自身の身の回りの世話や家族の事の方が大切になり、熱帯魚やペットの事は、その次の優先度にならざるを得ません。
そのため、何を優先すべきかという選択に迫られる場面となることも予想されます。
長年飼育してきた熱帯魚を手放すこと、分かれることは辛い事かと思いますが、長期の停電はその覚悟を決めなければならない時でもあることは、この記事の中でも記載をしておきたいと思います。
この記事の終わりに
今回の記事では、アクアリウムの停電に付いて様々な面で各種弊害を記載させていただきましたが、いかがだったでしょうか?
現代のアクアリウムは、ほぼほぼ電力ありきで設計されているため、停電はアクアリウムの維持を根幹から崩すこととなります。
私自身は実際に大災害に見舞われたことはありませんが、最近の日本は過去再々級の豪雨やゲリラ豪雨などが頻繁に起こるようになってきており、日本国内ではいつどこで何が起こるか予測が難しい状況です。
起こると言われ続けている東海地震よりも先に、各地で巨大地震が起こっており、専門家による予測も想定外になる状況…
これは、災害時は我が身・我が家族は自分で守るしかないということの裏付けだと思います。
日本では災害に備えた蓄えや準備は各御家庭でされているかと思いますが、一見見落としがちなアクアリウムの災害対策も考えておくべきです。
「貴方は災害時に熱帯魚を守ってあげられますか?」
「必要な物資・エネルギーを熱帯魚に使ってあげられますか?」
この問いは、アクアリストにとって、本当に難題になるのかと思います。