この記事をクリックしてくださった方は、多くの方がアクアリウムを楽しんでおられる方かと思います。
そんな皆さんに質問です!
水槽内の飼育水は、どのくらいの頻度で交換していますか?
1週間に1度でしょうか?それとも2週間に1度でしょうか?
毎日する必要は無いとわかっているけど、魚の糞や食べ残しで水がどんどの汚れていきますよね?
自然の川の中では、新鮮な水が常に供給されているので水替えの必要な無いのですが、水槽の中では同じ水がフィルターでぐるぐる回っているだけです。
そのフィルターの中で水を浄化してくれているのが「バクテリア」なのですが、皆さんはその濾過過程を御存じでしょうか?
私はアクアリウムを始めた当初、この原理が全く分からなかったので、かなり勉強して自分なりに理解を深めてきました。
まず、濾過の過程に「物理濾過」「化学濾過」「生物濾過」の3種類があるなんて知りもしない事実でしたね…。
この記事では、そんな過去の私と同じように、濾過の過程について詳しく知りたい方向けに、濾過の原理を踏まえてわかりやすく説明したいと思います。
物理濾過は浮遊物除去の要
物理濾過の主役はお馴染みの「ウール材」
物理濾過は一番イメージしやすい濾過ではないでしょうか?
物理的に濾過するということで、理科の実験で漏斗と濾紙で実験をしたのと同じ原理です。
アクアリウムに置き換えると、フィルターによって水中を漂うゴミを物理的に除去する濾過になります。
水槽内を漂う浮遊物というと、魚が食べ残した餌、魚の糞、水草の枯葉などがありますが、水槽内に漂っていると水槽の美観的に好ましくないですよね…。
水槽内の目に見えるゴミは、それなりに大きなゴミになるので、水は通るけどゴミが引っかかるようなもので濾過してしまいましょう、ということです。
それを担うのが、下でも紹介する「ウール」という濾材です。
誰もが小学生時代に飼育した金魚の飼育でも使ったことがあると思うので、見慣れた存在だと思います。
フィルターの中にウールを入れることで、ウールが大きなゴミをどんどん除去してくれます。
お店に行くと、様々な種類のウールが並んでおり、どれを使うべきか迷うと思うのですが、基本的にどれも性能はほぼ同じなので、正直どれを選んでも失敗は無いです。
ただし、ウールを選ぶときに、一つだけ気にしておいてほしいところがあります。目の粗さです。
ウールには目の細かいものから大きなものまで用意されています。
通常は最初に目の大きいものに水を通過させ、最後に細かい目のウールを使用するようにします。
こうすると、大きな浮遊物から除去されていくので、細かな目のフィルターに大きなゴミが目詰まりすることを防いでくれます。目詰まりすると、水流が落ちるので、フィルターの処理能力が落ちてしまいます。
また、物理濾過を有効に活用するには、水槽内の水流も重要な役割を果たしますが、これは別の記事で記載したいと思います。
ウール材は汚れたら早めに交換
ウール濾材は、汚れて詰まったら基本的に交換しましょう!
洗って再利用する方もいらっしゃいますが、ウールは安価で販売されていますので、私は汚れたら交換しています。
何度も洗って使うと、ウールがフニャフニャになり、剛性が落ちてきます。
フィルター能力がなくなるわけではないのですが、剛性が落ちてウールが潰れるため、フィルターの目詰まりが早くなり、結局メンテナンス頻度が多くなるというデメリットの方が大きいです。
ウールマットにも、下で説明する生物濾過のバクテリアが定着しているのですが、生物濾過用のリング濾材に比べるとバクテリアの数が明らかにすくないです。
そのため、ウールに住んでいるバクテリアのことは気にせずに交換してしまって問題ないと思います。
私は、水槽内の浮遊物が嫌なので、1週間に1度は壁掛けフィルターのウール材を交換しています。それでも、濾過に不具合が出た経験はありません。
以前、壁掛けフィルターのウール交換を忘れてしまったことがあるのですが、悲惨なことが起こりました…。
同じ経験をした方もいるかもしれませんが、壁掛けフィルターの場合、ウールが詰まってくると飼育水がフィルターから溢れてくることがあり、家の中が水浸しになります。水浸しになるだけでなく、漏電の危険性もあるので、壁掛けフィルターにウールを使用する方は、定期的に交換してくださいね!
「物理濾過を担うウール材は定期的に交換する」ということは忘れないでおきましょう。
化学濾過で水の透明度を上げる
「化学」と聞いただけで目を背けたくなる方もいませんか!?
大丈夫です、そんなに複雑な化学式なんて使いません!
アクアリウムで使われる化学濾過が何をするためのものなのかと言うと、基本的には飼育水の着色汚れや餌から出てくる油分を吸着除去する目的で使われる場合がほとんどです。
着色汚れの代表は、水槽内のレイアウトに使っている流木から出る灰汁 (アク) で、流木と同じ茶色の着色汚れです。
買ったばかりの流木は、水につけると茶色の汚れがにじみ出てきますが、これを化学濾過の濾材である「活性炭」や「ゼオライト」で吸着して除去します。
アクが出ないように処理をして販売されている流木もありますが、私の経験上、アクの出ない流木は無いです!さらに、アクは相当長い期間、出続けますので化学濾過を使わないと水槽の水に濁りが出てきてしまいます。
流木の灰汁抜きも販売されていますが、大方のアクを抜いてくれるだけで、完全に除去することはほぼできません。
しかも、アク抜き剤に漬け込んで1週間程度という長い時間がかかります。
流木を使う際は、実際に水槽内のレイアウトを始める前に、使用準備を始めておくと良いと思いますが、そんな下準備は現実問題としてなかなか面倒ですよね…。
ですので、アク抜き剤でさらっと処理して、あとは化学濾過に任せちゃいましょう!というのが、現実的なアクの処理なんです。
また、水槽の立ち上げ初期はバクテリアがしっかり定着していないため、水が白く濁ります。誰がやっても、最初はこの白濁は起こるので心配しないください。
この白濁も化学濾過によって軽減できますので、立ち上げ初期は活性炭などを有効活用することをお勧めします。
ただし、化学濾過のデメリットなのですが、最も使用される化学濾過用の活性炭は寿命は短く、約1~1.5カ月で効果が薄れます。1カ月って、あっという間に過ぎていくので、忘れてしまうことが多々あります。
いつ交換したか、どこかにメモしておいて交換を忘れないようにしましょう。
「活性炭」について詳しく説明
上で、化学濾過には活性炭を使用することを紹介しました。
活性炭はヤシ殻などを原料として高温で処理して作られた微細孔を有する炭素のことなのですが、皆さんの生活の中にも根付いた商品かと思います。
例えば冷蔵校の中の消臭剤や衣類の消臭剤、または玄関先の消臭剤にも活性炭が使われていますよね!
「匂いを取る」ということと、水槽内の「着色汚れを除去する」ということは、実は化学的には同じことをしているんです。
匂いの原因を吸着除去するか、着色汚れの原因を吸着除去するかの違いです。
活性炭は表面に多くの微細孔 (小さな穴のことです) があり、表面積が非常に大きく、活性炭の名の通り様々な物質を吸着します。
「活性」とは、物質の表面の原子が近くを通過する物質を吸着する能力があることを言います。活性炭の場合には、表面の炭素原子が着色汚れを吸着除去してくれます。
活性炭は比較的安価でこの効果が得られるため、様々な用途で吸着材として利用されるようになりました。
水槽内では着色汚れだけではなく、悪臭の原因となる臭いの分子や油分も吸着してくれるので、物理濾過や下で説明する生物濾過で除去しきれない汚れの除去に有効な濾材になります。
特にリビングや寝室などに水槽がある方は、臭い消しの役割で導入すると、室内に水槽の匂いが充満することを未然に防いでくれますよ!
生物濾過を制する者がアクアリウムを制する
濾過過程の最後の一つが生物濾過です…。
さぁ、最も複雑で理解に苦しむ濾過の登場です。
しかし、この生物濾過があることで水替えの頻度を減らすことができる、非常に重要な濾過工程です。
物理濾過・化学濾過・生物濾過で「どれが一番大事ですか?」と聞かれたら、確実に生物濾過ですね!
熱帯魚を飼育水の中で健全に育ててくれる、大事な濾過ですので、完璧に理解できなくとも、概要を勉強しておいて絶対に損はないです。
さて、それでは順番に説明していきましょう! 準備は良いですか?
分かりやすくするため、下の図1を用いて説明したいと思います。
①有機物分解バクテリアが糞や残餌を分解
魚の死骸や排泄物 (尿素) 、また餌の食べ残しは大別すると「有機物」です。
これらの有機物は、有機物分解バクテリアによって分解され、アンモニア (NH3) が生成されます。
有機物分解バクテリアが有効に働いていると、飼育水中のアンモニア濃度が増加していきます。
このアンモニアは生物にとって毒になりますので、致死量に届かないようにしなければなりません。
そこで重要になるのが、次の②のアンモニアの分解です。
②アンモニアを亜硝酸に変えるアンモニア酸化バクテリア
発生したアンモニアを除去するには、水替えをして濃度を下げるか、アンモニア酸化バクテリアの力を借りることによって分解します。
アンモニア酸化バクテリアは、水中の酸素を利用してアンモニアを分解し、亜硝酸 (NO2) に変化させます。
「よし!アンモニアが減って、健全な飼育水になった!」とは思わないでくださいね!
この亜硝酸も実は魚に取っては毒なんです…これも濃度を下げないと、飼育水の環境悪化は進んでしまいます。
③生物濾過の最終工程を担う亜硝酸バクテリア
②で発生した亜硝酸は、今度は亜硝酸を酸化する亜硝酸酸化バクテリアによって硝酸に (NO3) に変化します。
やっと、アンモニアも亜硝酸も消えましたね!
これで魚に取って有害な二大要素が無くなりました。
ここで生成された「硝酸」は生物濾過による最終生成物になります。そのため、これ以上はバクテリアによる分解が進みません。そのため、硝酸は水槽内に蓄積されていき行く一方です。
では質問ですが、硝酸が高濃度になると生どうなるでしょうか?
化学の授業で習ったと思いますが、硝酸は酸性の化学物質です。つまり、化学で習った硝酸と同じように飼育水が酸性の水溶液に近づいていくんですね。
硝酸の濃度が低く、弱酸性の状態であれば全く問題無いのですが、どんどん蓄積していき、pHが下がってしまうと魚の体に支障が出てきます。
そのため、この硝酸の濃度を下げるために、定期的な水替えが必要になるのです。換水しないと魚に影響がでるというのは、この硝酸が原因なんです!
最後に、ここまでで説明した①②③の生物濾過の過程を下の図2で、グラフ化して考えてみたいと思います。
縦軸はアンモニア・亜硝酸・硝酸の濃度、横軸は経過時間です。
まず、生体を導入すると、有機物分解バクテリアによってアンモニアが増加します。
しかし、アンモニア酸化バクテリアの活躍で、アンモニアが分解され、少し時間が経ってから次に亜硝酸が増え始めます。
亜硝酸についても、亜硝酸酸化バクテリアによって濃度が落ち着き、最後に硝酸の濃度が増えていきます。
硝酸については、最終生成物のため増加の一途を辿り、致死量に向かっていきます。ここで水替えをしないと、水槽内の生命維持が厳しい状態になってしまいます。
致死量になる前に水替えをすることで、完全にリセットとまでは行かないにしても、各濃度を減らすことができます。
このサイクルによって水槽内の飼育水が健全な状態に維持されています。
さぁ、お疲れさまでした。物理濾過から生物濾過までの一通りの説明は以上になります。
結論として、水替えは定期的にしましょう!というところに行きつくのです。
最終生成物の硝酸は実は植物の肥料
図1で最終的に残った硝酸ですが、これは前述の通り、分解するバクテリアがおらず、バクテリアの分解過程では最終生成物になります。
しかし、この硝酸は実は植物の肥料として使われることもあります。
植物の肥料の3大要素は窒素、リン酸、カリウムですが、硝酸に含まれる窒素が植物の肥料になるんですね。
水槽内の生体数が適切で、硝酸の生成量が制御できれば自然の循環を再現ができます。最近ではこの循環サイクルを用いて、水耕栽培と養殖を組み合わせたアクアポニックという技術も登場しています。
生物濾過に必要な濾材について
さて、生物濾過の原理がわかったところで、続いては生物濾過に使う濾材の説明が必要ですね。
物理濾過はウール、化学濾過は活性炭と説明しましたが、上の生物濾過の部分では説明が長くなるため、ここに分けて記載することとしました。
生物濾過も長い説明だったのですが、生物濾過の濾材も長くなります…。
この記事に疲れてしまったら、ブレークを取ってから下の説明の続きに進んでいただければ幸いです。
リング濾材はバクテリアのお家の役割を果たす
私がリング濾材について初めて学んだ時に、これは濾過に役に立つのか?という疑問がありました。ウールのように目が細かくなく、浮遊物が引っかかるような形状でもないので…。
生物濾過というものを知って、初めてこの濾材の意味を知ることができました。
このリング濾材はアンモニアや亜硝酸を分解してくれるバクテリアの家になり、濾材の表面にバクテリアを定着させるためのものなんです。
リング濾材は見た目は表面がつるつるしているのですが、触るとザラザラしています。顕微鏡でミクロに見ると小さな穴や凸凹があり、表面積が非常に大きくなるような設計になっています。材料はセラミックが多いです。
表面積が多いほど、定着するバクテリアの量 (面積) が大きくなりますので、中央に穴が開いてリング状になっていることに意味もあります。
このリング濾材に水を通すことで、バクテリアと飼育水を接させて、バクテリアにアンモニアや亜硝酸の分解をしてもらうことが目的です。
リング濾材は直径1.5cm程度で比較的大きいため詰め込んでも水流を妨げにくい構造になっています。また、中央に穴が開いているので、図1(a) に示すように、水流を妨げることなく、浮遊物を除去する能力もあまりありません。
そのため、濾過の一番最初に配置されることが多いです。
各メーカーさんが独自のリング濾材を販売されていますので、自分の飼育スタイルに合ったものを選んでみてください。バクテリアの立ち上がり方の速さなどには差があるかもしれませんが、概ねどのリング濾材も熱帯魚の飼育には問題がない性能を有しています。
球状濾材は高密度でバクテリアの働きを向上
球状濾材の働きはリング濾材と基本的に同じです。
表面にバクテリアを定着させて、生物濾過を得るための濾材になります。
球状濾材とリング濾材の違いは、図3に示すように、フィルターに詰め込んだ時の密度の高さですね。
球状濾材はリング濾材よりも小さいことが一般的であり、図3(b) に示すように水流が遮られることになります。
そのため、バクテリアと飼育水が接触している時間を長くすることができるのです。これによって、飼育水の処理能力は球状濾材の方が高くなります。
球状濾材も顕微鏡で見ると多孔質でボコボコした表面になっており、バクテリアが多く定着できる構造になっていることも記しておきますね。
濾材のメンテナンスで必ず守って欲しいこと
バクテリアが定着したリング濾材と球状濾材は、アクアリストの宝物です!
非常に状態の良いバクテリアがいると、水槽内の白濁は無く、浮遊物の分解も違ってきます。
私も水槽とフィルターの立ち上げ当初は白濁りが取れませんでしたが、2週間か3種間くらいしたら、水槽内の濁りが一気に消えました。
「こんなに違うものなの!?」と目を丸くして驚いたことを今でも覚えています。濾過の説明の場所で、生物濾過が最も重要と記載しましたが、それを実感できる瞬間ですよ。
バクテリアが完全に立ち上がると、水替え等により水質の変化もあっても、あっという間に定常通りに戻りますので、水槽を「安定」をさせるためには絶対に必要な濾材なのです。
リング濾材と球状濾材は汚れても新しいものに交換せず、軽く汚れを洗い落とす程度にしましょう。バクテリアが流れ落ちてしまっては元も子もありません。
また、洗う際は水道水ではなく飼育水を使って洗いましょう。飼育水が使えない場合には、しっかりとカルキ抜きをした水を使うようにしてください。カルキ入りの水道水を使ったら、せっかく育ったバクテリアが死滅してしまいます。それは、言い換えれば、バクテリアの育成を一からやり直すことになります。
濾材の並び順は濾過性能を決めます
濾材の並べ方は濾過能力とフィルター詰まりに大きな影響を与えることも覚えておいてくださいね!
基本的な順序はは、目の粗いものを最初に配置して、徐々に目の細かなものにすることになります。
最初に目の細かなものを設置すると、あっという間に浮遊物が濾材に引っかかり、目詰まりを起こし水量が減ってしまいます。フィルターの水流を長く維持するためには、目の粗いものから細かいものへ配置することを心掛けましょう!
下の図4に示すように、「リング濾材⇒粗目ウール⇒球状濾材⇒細目ウール+活性炭」の順番に並べるのがベストな配置方です。 一番安定した濾過性能を得られる最適な組み合わせだと思います。
フィルターと濾材のまとめ
本記事で紹介させていただいた物理濾過・化学濾過・生物濾過はどれか一つが欠けても、美しく健全なアクアリウムを維持することができません。
物理濾過については、水槽内を浮遊するゴミを除去し美観を改善してくれます。リビングに設置したアクアリウムが浮遊物・ゴミだらけの水槽では、ちょっとイメージが悪いですね。
化学濾過についても、飼育水の美しさを保つために必要なものです。ゴミの様に目に見えないが、水自体に色を付けてしまう成分を除去する大切な濾過になります。
そして、アクアリウムの維持で最も重要な濾過が生物濾過になります。バクテリアの力を借りて、魚が出した老廃物を無害化し、魚の生命を維持する重要な濾過です。
バクテリアと仲良くできるアクアリストは、必ず水質管理に成功します!
そして、これらの大切な濾過を担うのが各種フィルターになります。アクアリストとして、各種フィルターの特性も学び、魚にストレスのない環境を実現していきましょう。各種フィルターの紹介も今後は記事にしていますので、御参考にしていただけましたら幸いです。
また、以下の記事では、溶存酸素が足りないがために濾過バクテリアによる生物濾過性能が落ちてしまった実例も紹介しております。