【徹底解説】水槽の溶存酸素測定とエアレーションの重要性について

人は空気中から酸素を肺に取り込みますが、魚は水中でエラから酸素を取り込みます。

同じペットである犬や猫は哺乳類のため、我々と同じ環境で飼育できますが、魚は住む場所が完全に異なります。

そのため、何も考えずに飼育していると、いつの間にか魚が住みにくい環境を作ってしまっているかもしれません。

実は犬や猫を飼うよりも、魚の飼育環境作りは難しいことなんです。

そのため、魚の飼育環境において「溶存酸素」の特性や基礎知識を知っておくっことは、一段上の水槽管理をする上で重要なトピックスになります。

この記事では、溶存酸素の基本的な性質とともに、実際に水槽の溶存酸素量を測定した結果を紹介し、適切な環境を作るアドバイスができればと思います。

また、エアレーションによる溶存酸素の供給についても、わかりやすく説明していきます。


Advertisement

溶存酸素を知って魚の住み易い水槽を実現しよう

まず最初に、溶存酸素の簡単な説明をしたいと思います。

また、実際に私の管理する水槽の溶存酸素を測定した結果も紹介します。

魚の生命線となる溶存酸素

溶存酸素は水中に溶け込んでいる酸素のことで、魚やシュリンプはこの溶存酸素をエラから体内に取り込んで生活をしています。これは、皆さん御存じの通りだと思います。

溶存酸素は、英語ではDissolved Oxigenと言い、略してDOと記載されている場合があります。

一般的に使われませんが、溶存酸素に関する製品などを購入すると見ることがあるかもしれません。

溶存酸素の単位は、1Lあたりに溶け込んでいる酸素量という意味でmg/Lが多用されていますが、私生活の中では使うことがほとんどないです。ただし、この記事の中では、実験結果も紹介するのでここでは覚えておいてください。

溶存酸素が減るということは、魚がエラから酸素を得ることができなくなりますので、最悪の場合には水槽内の生物が生命を維持することができなくなってしまいます。

これが、水中での「酸欠」という状態です。

また、生物濾過を担うバクテリアのアンモニア分解や亜硝酸分解にも酸素が必要になるので、魚だけのことを考えるだけでは駄目なんですね。

魚が消費する酸素、バクテリアが消費する酸素、そして水草にも酸素が必要になりますので、それらを賄えるように酸素を送り込んであげることが必要になります。

水温と溶存酸素量の関係を測定した結果

水中に溶け込む溶存酸素の量って、何が一番影響を与えているか御存じでしょうか?

実は、溶存酸素が溶け込む量は水温に大きく依存します。

浮遊物の量や汚れの量が影響しそうにも思えるんですが、それらは全く関係なく…基本的に水温に依存しています。

水温が高くなると水中の溶存酸素量は減り、水温が下がれば溶存酸素量は増えていきます。

頭の中に「?」マークが出てしまった方もいらっしゃるかもしれませんね。

少しイメージしにくいかもしれませんので、図を用いて説明しましょう。

図1(a)に示すように、水温が低い場合には、水中に存在する溶存酸素の持つ熱エネルギーも低くなるので、溶存酸素が水中で動き回りにくい状態になります。

水面付近の溶存酸素が空気中に出ていく時には、水の分子との結合を切って外に出なければなりません。低水温の時には、この結合を切れるだけの熱エネルギーが無いため、溶存酸素は水中に留まりやすくなり、溶存酸素量が増えるのです。

水温変化による溶存酸素の動きの変化
図1: 溶存酸素の水中での動き (a)水温が低い場合 (b)水温が高い場合

逆に水温が高い場合には、図1(b)に示すように、溶存酸素の持つ熱エネルギーが高くなりますので、溶存酸素が水中で動き回りやすい状態になります。

すると、水面付近にある溶存酸素は水分子との結合を切って、水中から空気中へ飛び出していきます。そのため、溶存酸素量は減ってしまう傾向になります。

図で見ても理解が難しいかもしれませんが、矢印の大きさで溶存酸素の持つエネルギーを表現してみました。

図2のグラフに、私が実際に計測した溶存酸素量と水温の関係を示します。

百聞は一見に如かずで、実際にグラフを見てもらった方が分かりやすいです。

この測定は、11月に30cm水槽の中でヒーターを用いて水温を変化させた時の結果です。一応、酸素が供給されやすいようにフィルターを使用しながら行いました (気圧は大気圧で、外気は気温18℃くらいでした) 。

溶存酸素と水温の関係を測定した結果のグラフ
図2: 溶存酸素と水温の関係

参考書に乗っているような綺麗なグラフではなくて申し訳ないのですが、水温の上昇とともに溶存酸素量が減っていることがわかります。

皆さんが用いている飼育水の水温としては24℃前後が一般的かと思います。24 ± 2℃くらいであれば、それほど溶存酸素量の変化量を気にすることは無いと思えますが、本当にそうでしょうか?

じつは、水槽内の魚にとってはこの溶存酸素量の変化は大きな変化になっているんです…。

我々が呼吸する空気の中には約20%の酸素が存在していますが、これが18%くらいになっただけで息苦しさを感じ始めます。僅か10%の酸素の減少量です。

上のグラフで溶存酸素で考えると、8mg/L が 7.2mg/L になったのと同じ変化量です。つまり、温度が少し上がって30℃くらいになると、魚が息苦しさを感じるようなレベルになってしまうんです!

私も実際に測定するまでは、こんなに敏感だとは思っていませんでした。

魚の数が多い場合には、溶存酸素の使用量がおおくなりますので、下で説明するエアレーション (一般に言うブクブクや各フィルターからの水流を利用した酸素導入) をかけることが絶対に必要になります。

水面で口を出す金魚

夏は溶存酸素に最も注意が必要な季節

夏の室内は酸欠の危険性が高まります

図2のグラフで、水温が上昇すると溶存酸素量が減ってしまうことを説明しましたが、この結果は夏に特に注意が必要であるということに繋がります。

日本の夏は近年、毎年のように過去最高気温という文字が並びますよね … 。

クーラーを使用せず、暑い部屋の中に水槽を放置するという行為は、魚たちを過酷な環境下に置くことになるということは忘れてはいけません。

夏の昼間、空調を使用していない室内温度は40℃近くになりますので、水温もそれに比例してどんどん上昇していきます。

すると、溶存酸素が知らぬ間に減っており、水槽の中の生体が危ない状態 (酸欠の危機) にさらされることになるのです。

エアレーションをきちんとかけていれば、空気中から酸素を取り込むことができますが、エアレーションが弱い場合には、魚が水面で口をパクパクさせる酸欠状況になってしまいます。

溶存酸素が減ると深刻な酸欠ループが始まります

溶存酸素が減るということは、同じ気体である二酸化炭素の水中への溶存量も減ることになります。

つまり、水槽内の水草が光合成で使用する二酸化炭素も減りますので、水草が水中に出す酸素量も減ります。

さらに言えば、水温が高くなると熱帯魚の生体としての活動が活発になるので、魚の酸素使用量は増えていきます。

さらにさらに、バクテリアも高水温で活動が活発になりますので生物濾過活動による酸素使用量が増えていきます。

つまり、高水温で酸素供給が止まるということは、溶存酸素量低下の負の連鎖を起こすことに繋がり、水槽内が短時間のうちに危機的な状況になるということなのです。

考えただけでも、恐ろしい状況ですよね … 。

夏場にの貯水池や池で、コイやフナが水面から口を出しているのを見たことがありませんか?(特に流れがない溜め池のような場所)

あの状況が溶存酸素が足りていない状況になるのです。

そんな恐ろしい状況にしたくは無いので、私は水温が上がる夏場はエアレーションの実施と、飼育水のクーラーを必ず用意してあげています。

少し電気代がかかってしまいますが、我々自身がクーラーを使って快適な生活をしているのに、魚にだけ過酷な生活環境を強いることは嫌ですよね … 。

酸欠のサインを見逃さずに対応しましょう

酸欠が起こり始めると、水槽の中では様々な変化が起こり始めます。

その変化は、見た目や臭い等が大きく変わるので、誰でもすぐに発見しやすく対応もすぐにできます。しかし、そうなる前に事前に環境整備をしておきたいところです。

私が夏に酸欠を起こしてしまった時に、水槽内で起こった変化も参考のために記載しておきます。

まず、一番最初に見られたのが、前述の通り熱帯魚が水面で口をパクパクさせることです。池のコイやフナが水面で酸素を吸い込むのと同じ行動を、8月にネオンテトラがしておりました。

最初に見た時はびっくりしましたが、原因は水槽用クーラーの電源が切れていました (多分、何かの拍子にOFFボタンを押していたのだと思います)。その時の水温は31℃あり、既に魚が茹で上がってしまいそうな状況でした。

また、その時には他の魚も行動が鈍くなって、反応が遅くなっていることも確認しました。水槽の前に私が立つと普段は逃げる魚たちが、体調が悪いためか反応が無かったのです。

設備としては、フィルターに関しても変化がありました。

密閉されていない壁掛けフィルターを開くと、いつもはしなかった異様な匂いが漂いました。単に夏の暑さによるものもあるかもしれませんが、春や秋には感じられないきつい臭いです…すぐに中を掃除して復帰させましたが、それ以来はひどい臭いは無く運転を続けています。

このようなことが無いように、毎日の観察で異変サインに気付いてあげられるようになりたいですね。

水草用の二酸化炭素添加にも注意しましょう

水草を育成している水槽では、水草の光合成を促進する目的で、水槽内に二酸化炭素を添加している方もいらっしゃるかと思います。

もちろん、二酸化炭素を添加しなくても水草は育ちますが、通常より成長を促進したり、葉の色を良くしたりするために二酸化炭素が使用されます。

溶存酸素が少ない状態で二酸化炭素を使用するとどうでしょう?

酸素は無くなっているのに二酸化炭素だけはどんどん供給される状態です。考えただけでも息苦しいですよね。

以前、私のミスで二酸化炭素の添加量を上げ過ぎたことがあります。その時は魚たちが二酸化炭素中毒のような状態になったのを今でも覚えています。

酸素量と二酸化炭素量の配分はきちんと考えて、水槽の維持管理に努めていきましょう。

黒板に書いたCO2の文字

Advertisement

必ず水槽にエアレーションをかけましょう

溶存酸素の確保がアクアリウム維持に重要であることは、上で説明した通りです。

では、効率よく溶存酸素を飼育水に供給するにはどうしたら良いのでしょうか?

ここからは、溶存酸素を水中に供給する「エアレーション」という方法について、原理を含めて説明に入っていきたいと思います。

エアレーションって何?

アクアリウムを始めようとしている方や、始めたばかりの方は「エアレーション (aeration) 」という言葉に馴染みが無いのではないでしょうか?

エアレーションは水中に酸素を送り込むために水面を動かしたり、いわゆるブクブクのようなフィルターで水中に酸素を送り込む仕組みの総称になります。

エアレーションがなぜ必要なのか?どのようにして酸素が水中に取り込まれるのか?という点を図を使いながら以下で説明したいと思います。

ブクブク (投げ込み式フィルター) を使うと水中に気泡が供給されるので、酸素が取り込まれるということが想像付くと思うのですが、水面が揺れるだけでも空気中から水中へ溶け込んでいきます。

水面が揺れるだけで酸素が供給されるというのは、少しイメージが湧かないのではないでしょうか?

水中の空気の泡

エアレーションをかけると溶存酸素が供給される

水面が全く動いておらず、かつ水流も無いという環境を想像してみて下さい。

例を挙げるなら、コップ中の水のような状態です。

この状態に魚が投入されると、魚に酸素がほとんど供給されない危ない状態になるのです。理由を次の図で説明します。

図3に示すように、水面が静止している場合、水面付近には十分な酸素が溶け込むのですが、水流が無いため溶存酸素が水深の深い方へなかなか広がっていきません。

水面が静止している場合の溶存酸素の図
図3: 水面が静止し支流もない状態の溶存酸素

そのため、深い位置に魚がいる場合には、酸素が供給されず次第に酸欠状態になってしまいます。

酸欠が起こると魚が水面に上がってくるというのは、この図のように、水面だけが酸素が供給されている状況だからなのですね。魚が酸素を求めて水面に上がってきている状況なのです。

酸素は水流に乗って魚に届けられます

では、水面付近の溶存酸素を水槽内全域にいきわたらせるにはどうしたら良いでしょうか?

そうです、水流を作ってあげることです

水流を作って、水槽内の飼育水を循環させることで、図4に示すように、水槽全体に溶存酸素が行き渡ります。水面から供給された酸素は、水流に乗って水槽全体に広がっていきます。

水流が生まれた時の溶存酸素の図
図4: 水流がある場合の溶存酸素量の模式図

水流については、そこまで激しいものは必要ありません。

例えば、餌やりの時に餌が自重で静かに沈んでいくのではなく、水中で水流に少し流されるように沈んでいけば十分な水流がある証拠です。

各種フィルターを使用していれば、多くの場合、フィルターからの給水で水流が生まれるため、水流の心配をする必要はありません。

エアレーションで水面を波打たせることが重要!

次に、エアレーションで水面を動かすことの意味をお話しますね。

図3で水面が静止している場合を説明しました。この場合は水面にのみ酸素が溶け込み、水面だけ酸素の濃度が高い状況でした。

そのため、表面の酸素濃度が高いために、新しく空気中から水中へ酸素が溶け込みにくい状態になってしまっています。

そのため、水面の酸素を拡散させないと、新鮮な酸素が新たに水面から取り込まれないのです。

図5(a)(b)に示すように、水面が動き水流が生まれると、水面の溶存酸素が水槽内に移動するため、水面の溶存酸素濃度は減ります。

すると、空気中から新たに水中へ酸素が溶け込むことができるようになり、水面付近の溶存酸素が増加します (図5(c)) 。

エアレーションの原理図
図5: エアレーションがある場合の溶存酸素の動き

これにより、水中の溶存酸素量がどんどん増えていき、水槽内全体の酸素が十分な量になるのです。この状態を常に維持するために、エアレーションは必要不可欠なものになります。

金魚の水槽などでよく見かける水槽内への投げ込み式のブクブクについても、同じ効果があります。

ブクブクによる溶存酸素の確保
図6: ブクブクによる酸素供給

ブクブクは水槽外部から空気を送り込み、水中に空気の泡を投入します。

これにより、水中で空気と水が触れ合うため、その気泡から酸素が取り込まれます。また、気泡が水面で弾ける時に水面を揺らしますので水面から溶け込む酸素も確保することができます。

さらに、気泡が水中を上昇するときと水面で破裂するときにできる水流により、水槽内全体に酸素を供給できるのです。

ブクブクって、原理を知るとすごい画期的で能力の高い設備だとわかりますね。長く愛され続ける理由がそこにあります。ブクブクの中にはウールフィルターも設置でき、物理濾過も併用できるので、簡単な水槽には最適なフィルターです。

この記事の終わりに

水中に溶け込んでいる溶存酸素は、我々が身をもって感じることができない存在です。

そのため、魚が住みやすい環境なのか?住みにくい環境なのか?を直接確認することができません。

溶存酸素計測器があれば測定できますが、一般の御家庭にはなかなか無いものです。そのため、確実に溶存酸素が供給される環境を整備し、日々の管理で魚の健康状態を確認してあげることが必要になります。

毎日のように魚を観察していると、少しの変化に気付きやすくなるので、なるべく毎日観察して、水槽の中で起こっていることが把握できるしておきたいですね!

アクアリウムの失敗談を聞くと、エアレーションが無かったことや、それを怠ったことによる酸欠が原因であることが多々あります。

魚が住める環境作りは、飼育する方の責任になりますので、魚が息苦しくならないように事前に環境を構築してあげましょう。

アクアリウムを始める方、また溶存酸素の基礎を学びたい方にとって、この記事が参考になれば幸いです。

また、以下の記事では、溶存酸素が足りないが故に生物濾過に支障が出てしまった実例を紹介しております。