アクリル水槽とガラス水槽の違いとは? -材質と特徴を比較-

水槽に使用される材質としてガラスとアクリルがあります。

様々なアクアリウムブログや専門誌でアクリル水槽とガラス水槽の比較がされていますが、概ねどこのページも「ガラス水槽は傷つきにくいです」「アクリルは軽くて丈夫です」といような概要が書かれています。

私としては「それは、なぜ?」という疑問を持っていつも見ていました。

ガラスは電子機器に使われるくらい丈夫で絶縁性の高い材質であることが特徴で、傷もつきにくく日光などによる劣化をほとんどしません。アクリルは確かに軽いのですが、材質としては堅牢さではガラスに勝てませんし、紫外線による劣化も生じます。

このブログではガラスとアクリルを少し掘り下げた視点から比較し、両材料の水槽の長所・短所・特徴をお伝えできるようにしたいと思います。


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アクリル水槽について

アクリルという材質の特徴

アクリルは「プラスチックの女王」と呼ばれるほど透明度の高いプラスチック材料です。

光の透過率は90%以上もあり、実はガラス以上の透明度を誇ります。

透過率というのは、例えばアクリル板に入射した光が、アクリル板の反対側に抜けていく率を示しており、高ければ高いほど透明度が高いことを示します。

その高い透明度から、アクリルは工業的には「有機ガラス」とも呼ばれています。ガラスは無機物であるのに対し、アクリルは有機物なのでそう呼ばれます。

特に透過度の高いアクリルはポリメタクリル酸メチル樹脂で光線透過度が93~94%と言われており、ほぼ透明に近い材料になります。

アクリルはプラスチック材料の中で最も強度がある材料であり、加工性も高いため世間では水槽以外にも様々な用途(ディスプレイ、照明など)に使われています。

アクリル水槽のメリット -透明度はガラス以上-

アクリル水槽のメリットですが、上記の通り、ガラスに勝る透過率を誇ることです。

水槽は熱帯魚を飼育しますので、水槽内の光 (熱帯魚や水草の姿や色) が水槽の材質で劣化することなく、私たちの目に届いて欲しいものです (ただし、下のデメリットにも記載しますが、アクリルの透過率は劣化する可能性があります) 。

また、ガラスよりも衝撃に強いため、少し叩いたくらいでは破損することはありません。90cm以上の大型水槽にも問題無く対応できる強度ですし、水族館の大型水槽は、ほぼほぼアクリル水槽で作られた水槽です。

さらに、割れたとしても破片が飛び散ることが無いのは安全上のメリットになるかと思います。

アクリルは有機材料なので過酷な気候の中では弱いのでは?というイメージはありますが、それなりに環境耐性はあるので、日本の生活環境であれば割れたり水漏れするような心配は無いです。

コストが安いというのもメリットですが、透明度やアクリルの種類によってグレードがあるので高価なものも存在します。

重さが軽いこともメリットなのかもしれませんが、一度設置した水槽は動かす機会は限られるかと思いますので、重さはメリットにならないと思います。

アクリル製のオブジェ

アクリル水槽のデメリットは何か?

アクリルを水槽ではなく「材料」として見ると、ガラスよりも耐熱性が低いという点がありますが、水槽としては温度が100℃以上になることは無いので、気にすることはありません。

ちなみにアクリルの融点は160℃前後ですので、普段の生活環境では全く問題無い耐熱性です。

私としては、普段のメンテナンスで考えるべきアクリル水槽のデメリットは、

①紫外線を吸収して透明度が劣化してしまうこと

②擦り傷への耐性が低い

という2点かと思います。以下で詳しく説明します。

①紫外線を吸収して透明度が劣化する

アクリルは紫外線を吸収しやすい材料です。

紫外線は私たちの肉眼で見えない波長の光ですが、アクリルはこの紫外線を吸収する特性があります。紫外線を吸収するということは、アクリルを構成する分子がその紫外線のエネルギーを吸収するということを意味します。

これは嫌な現象でして、そのエネルギーによってアクリルを構成する分子の組成が変化したり、分子の結合が破壊されてしまうのです。

これにより、透明度の高いアクリル分子構造がじわじわと時間とともに破壊され、透明度が落ちてしまうのです。

そのため、紫外線を多く含む日光が当たるような場所ではアクリル水槽の劣化が早まります。これがアクリル水槽は透明度が劣化しやすいと言われている原因になります。

ですので、屋外に水槽を置く場合や窓際に置く場合には、後述のガラス水槽の方が適していると言えます。日光が当たらないような環境であれば、アクリル水槽も長く透明度を保てます。

アクリル水槽の劣化については、水族館に行くと実際の例が確認できます。水族館の水槽はほぼほぼアクリル製ですが、比較的古い水族館の水槽は、少しアクリルの透明度が下がっているように思えます。家庭内のアクリル水槽でも、そのレベルの劣化が起こると思ってもらえたら想像がし易いかと思います。

直射日光の写真

② 擦り傷への耐性が低いこと

アクリルは前述の通り、プラスチックの仲間で有機材料になります。

有機材料は基本的に強度が低いです。そのため、擦りに対する「丈夫さ」を考えるとガラスには勝てません。

「いやいや、アクリルも十分強度があるって書いてあるよ!」と突っ込まれそうですが、ここで言う硬さとはひび割れ等に対する強度の事ではなく、アクリル表面への傷が入りやすさのことです。

例えば、ガラス窓に対してカッターの刃を弱い力で滑らせても傷は付きにくいですが、学校で使うノート用の下敷き等のプレスチック製品にカッターの刃を滑らせると引っかかったりしませんか?この違いが水槽の材質としても現れてくるのです。

アクアリウム用品に、剃刀 (カミソリ) の刃を使ったコケ取りがありますが、このような鋭利な刃物を滑らせたときに表面に小さな傷がついてしまいます。

「気になりませんよ」というショップ店員さんもいますが、ミクロに見たら傷が蓄積しているんです。傷が蓄積するとアクリル表面の透過率を下げますし、傷の中にコケが生えると取るのも一苦労です。

アクリルより硬くて丈夫なステンレスのカミソリで表面を擦ったら、アクリルが負けるのは当たり前です。ですので、剃刀を使ってコケ取りをしたい方は、アクリルではなくガラス水槽にしてください。

短期的には傷が目立たないかもしれませんが、長期的に考えたら傷の面はガラスの方が有利です。

水族館で活躍するアクリル水槽

アクリルは加工が容易でガラスよりも軽いため、大型の水槽を組み立てて製造することができます。実はこの分野で活躍されているのは日本企業です。

沖縄の「美ら海水族館」や東京の「すみだ水族館」だけでなく、ドバイの水族館も日本企業が手掛けています。アクリルの塊を接合し、その接合面が見えなくなるという高い技術 (特許技術) が使われており、以前テレビ番組でも放映されていたのを覚えています。

日本の技術って、本当に世界中で活躍しているんですね。

ガラス水槽について

ガラスという材質の特徴

ガラスの主成分は珪素 (Si) と酸素 (O) からなる珪酸 (SiO2) です。

ガラスの透過率は約88%となっており、実はアクリルの方が透過率が高くなります。しかし、水槽に適用するには十分な透明度を有した材料です。

ガラスも私たちの生活の中に根付いた材料で、コップや窓ガラス、テレビ用ディスプレイなど、様々な用途があります。

また、ガラスはとても安定な材料で、強酸性・強アルカリ性の液体にも溶けません。 そのため、化学の実験などでは純度の高いガラス (石英) 製ビーカーが使われていますね。ただし、この化学的に安定な特性は、アクアリウムの世界では過剰な品質だと思います(笑)。

ガラス水槽のメリット -科学的に安定した材料-

ガラス水槽のメリットは、

①紫外線を吸収しないため経年劣化で透過率が下がることはないこと

②傷が付きにくいこと

となります。これは、上記のアクリル水槽とは全く逆の特長になりますね。

これらのメリットは、ガラスを形成する珪素 (Si) と酸素 (O) の結合が強いことによる特徴と言えます。以下で詳細を説明します。

①紫外線を吸収しないため劣化しない

ガラスは珪素と酸素の結合が強いため、紫外線が当たってもその結合が破壊されることはありません。

紫外線はアクリルの組成を壊すことができても、ガラスの組成を壊すことはできないのです。

そのため、ガラス水槽は長期にわたり透明度・品質が劣化することがありません。日光が当たるような屋外や窓辺でもガラス透明度の劣化を気にする心配はありません。しかし、フィルターやゴム製品に直射日光が当たらないようにしたいので、水槽を設置する場所にはカーテンなどの対策をしてあげてください。ガラス自体は特別なメンテナンスをしなくても、透過率の高い美しい状態を長く維持することができます。

水槽の中を泳ぐ金魚

②傷が付きにくい

ガラスを構成する珪素 (Si) と酸素 (O) ですが、この原子同士の結合が非常に強いです。この結合は金属に勝るものがあり、金属を表面に滑らせても表面が傷つきにくいです。

アクリルの融点は160℃前後と記載しましたが、ガラスは約1400℃あります。この融点を見ても結合が強く溶けにくい材質であることがわかりますよね。原子同士の結合が強い材料ほど、溶かされにくいのです。

そのため、刃物で多少触れても傷が付くことがほとんどありません。

このガラスの固い原子結合に傷を付けるには、さらに固い材料を持ってこないといけません (例えばダイヤモンドや窒化ホウ素などです) 。少し話が脱線しましたが、ガラス水槽はこの理由で傷が付きにくい丈夫な水槽なのです。

長く愛用する60cmクラスの水槽であれば、私はガラス水槽をお勧めします。

ガラス水槽のデメリット

ガラス水槽のデメリットは、割れる危険性があることだけだと考えます。

重さについては、確かにアクリル水槽よりも重いですが、一度設置したら動かすことは頻繁にありませんので、気にする内容ではないと思います。

また、他のブログでは「加工が難しい」ことがデメリットと書いていあるのが散見されますが、水槽を自分で作るのでなければ、これはデメリットになりません。多くの方は既製品の水槽を購入されると思いますので、加工性を考える必要は無いです。

話を戻して「割れる」という点について…。

私はガラス水槽を愛用していますが、子供がまだ小さいので、物を投げた時に割れないかが心配になります。子供も危ないことは分かっているので、心配は無いと思いますが、育児をされている方は「安全」を最優先にするのであればアクリル水槽の方が良いかもしれません。

窓辺の子供の人形の写真

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結局、どちらの材質が良いの?-私はガラスを薦めます-

私としては、60cm以下の水槽で美観を長く保つならガラス水槽の方をお勧めします。

アクアリウムという趣味は、長い間、自分の趣味として楽しむことができます。

年齢を重ねて仕事を引退した後も楽しめますので、同じ水槽と長く付き合うためには、長く品質を維持できるものを購入する方が良いです。

また、ガラスの方がアクリルよりも高級感があります。

「ガラス」という材料を耳にした時に思う浮かべるイメージは、「繊細」とか「透き通る」というような言葉ではないでしょうか?

そのイメージの通り、リビングや自分の部屋に設置する際には、少し優越感ある存在になってくれます。

ただし、90cm以上の水槽となると少しだけ話は変わります。90cmのガラス水槽となると、重さも一気に上がりますし、価格も一気に上がります。

大きな水槽になるほど、アクリルを選ぶ人の方が多いです。

したがって、上に書いたようなメリットとデメリットを考慮していただいたうえで、水槽のサイズを考慮して判断してもらえればと思います。

繰り返しますが、私としては、60cm以下ならガラス水槽、それよりも大きくなるようであればアクリル水槽の検討をお勧めします。

皆様の水槽選びの御参考にしていただけましたら幸いです。