アクアリウムにおける活性炭の役割と汚れや臭いを吸着する原理

活性炭は、飼育水の着色汚れや臭いの原因となる分子を吸着除去してくれる濾材の一つとなります。

活性炭の役割は何となく知っていても、活性炭の働きを上げる使い方や吸着の仕組みなど、基本的な原理というのはあまり知られていないように思います。

この記事では、アクアリウムにおける活性炭の役割と、活性炭が汚れを吸着してくれる原理について、詳しく説明していきたいと思います。

少し物理や化学のお話も入りますが、可能な限り簡単な表現で記載していきますので、最後までお付き合いいただけましたら幸いです。


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活性炭は化学吸着によって汚れや臭い分子の除去する

原子や分子が何かの物体に吸着するという現象には「物理吸着」と「化学吸着」の2種類があります。

少し難しい物理の話になってしまいますが、物理吸着はファンデルワールス力と呼ばれる原子・分子間の相互作用による弱い凝集力で吸着する現象です。この物理吸着は、吸着力が弱いため、吸着した分子は再び離脱してしまう可能性も高くなるため、消臭効果や汚れを吸着する効果は弱いと言えます。

それに対して、化学吸着は原子や分子間のイオン結合や共有結合という非常に強い化学結合で吸着し、一度吸着すると離れないような吸着力を得ることができます。

活性炭による水槽内の汚れや臭い分子の吸着除去は、化学吸着を利用していますので、活性炭に吸着した汚れが再び水槽内へ流れてしまう可能性は低いと言えます。

アクアリウム用の活性炭はどうやって作られるの?

活性炭の原料となる材料は主に木炭、ヤシガラ、石炭等です。これらの炭化物を水蒸気や薬品を用いて高温処理し、多孔質 (小さな穴がたくさん開いている状態) の炭に変化させたもが活性炭です。

また、アクアリウム用の活性炭はフィルターの中など狭い場所に導入する場合が多いため、大きな塊の活性炭を利用することはできません。

大型の消臭装置などでは、工業用に形成された大きな活性炭やシート状になった活性炭が用いられますが、アクアリウム用の活性炭は活性炭を粒径の小さな粒状にしたものが基本的に使われます。

活性炭を粒状にしてホッカイロのようなパック詰めの状態にすることで、フィルターの中などの狭い場所に詰め込んで使用することができます。

また、フィルターによっては、ウール濾材の中に活性炭が埋め込まれたような商品もありますので、アクアリウム用としては様々な形態で活性炭を利用することができます。


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粒状の活性炭の方が吸着能力が高くなります

アクアリウム用の活性炭パックを使ったことがある方であれば御存じかと思いますが、活性炭は上述の通り粒状になったものが水中で使えるようにパック詰めされています。

「炭」と言うと、木の棒が炭になった姿を想像される方も多いかと思いますが、実は粒状の方が汚れを吸着する能力が大幅に向上します。その原理を簡単に説明したいと思います。

例えば、下で示す図のように、活性炭を立方体に模して考えます。ここでは、左の図の様に立方体が8個結合した状態 (活性炭が塊の状態) と、右の図の様に8個の立方体がバラバラにある場合 (活性炭が小さな粒状) を考えてみます。そして、この小さな立方体の1つの面に1つの汚れが吸着できると仮定します。

この時、次の図に示すように、活性炭が塊の状態では塊の1つの面に4つの汚れが吸着されます。したがって、立方体には6面あることを考えると、合計で6×4=24個の汚れを吸着することができます。

活性炭が塊の場合の吸着の様子

これに対して8個の立方体がバラバラの状態であると、次の図に示すように、1つの立方体に6個の汚れが吸着します。そのため、8個の立方体があれば、8×6=48個の汚れが吸着することになります。

活性炭が粒状の場合の吸着の様子

つまり、塊の場合に比べて粒状になった方が、汚れを2倍吸着することが可能になります。このように、より多くの汚れや臭いの原因となる分子を吸着することができるため、活性炭は粒状で使用されることが多いです。冷蔵庫に入れる消臭目的の活性炭も同じ原理で粒状のものが多いです。

話は変わりますが、材料の表面積を増やすことで汚れを取り除く効果を向上させることは、フィルターの中の濾材にも同じことが言えます。濾材の面積が大きくなれば、バクテリアの定着する面積が増えますので、生物濾過の能力が向上することになります。

また、アクアリウム以外でも、同じような原理で表面積を大きくして効果を向上している技術がたくさんあります。例えば車の冷却装置 (ラジエーター) は、熱を逃がす効率を高めるため、放熱フィンの表面積を大きくする構造を持っています。表面積の大きさを拡大することによる効果向上の原理は様々な場面で使える技術なので、覚えておくと色々と便利です。

活性炭が飼育水内の汚れや臭い分子を吸着する原理と過程

活性炭が汚れや臭いの分子を吸着するということをお話ししていますが、どのような原理で吸着するのかを簡単に紹介しておきます。

上でも説明しましたが、活性炭による汚れの吸着は「化学吸着」となります。

高校の化学で出てきた覚えもありますが、簡単に説明すると下の図に示すように、原子には他の原子と結合するための手が出ています。ここでは活性炭の話をしているので、上の立方体の活性炭をモデルにしますが、活性炭を構成する炭素の各面から手が出ていることになります。


原子や分子同士がこの手と手を取り合うことで結合が生まれ、原子や分子が結合することになります。下の図の様に、汚れの分子と活性炭の手が結合すれば、これが吸着と言う現象となり、汚れや臭い分子を捕獲する原理となります。

このように、表面に未結合手がたくさんあると汚れや臭いをたくさん吸着してくれる「活性な状態の炭」なので「活性炭」と呼ばれます。


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活性炭は飼育水の中の何を吸着してくれるのか?

活性炭は様々な汚れや臭いの原因となる分子を表面に吸着して除去してくれることは分かったのですが、具体的に水槽の中では何を吸着除去してくれるのでしょうか?

基本的に、水槽内に置いても、汚れや臭いの原因となる分子については、活性炭で吸着除去することができます。特に、水槽内の美観を損ねるような分子の多くは活性炭が除去してくれます。

例えば、熱帯魚の人工飼料から排出される「たんぱく質系の分子」です。これは、水面に油膜を作る原因にもなるのですが、活性炭は吸着してくれる能力があります。ただし、あまりにも油膜が厚くなってしまうような管理状態ですと、活性炭の能力では処理が追い付かない場合もあるので、私の経験上、油膜除去は別の方法と活性炭の組み合わせがお勧めです。

また、流木から出てくる着色汚れも活性炭が吸着除去してくれます。流木は着色汚れを落とす処理が施されて販売されているものもありますが、完全に着色汚れを無くすことはできません。放っておくと飼育水が茶色くなってしまうのですが、活性炭を入れることでその着色汚れを軽減することが可能です。

臭いの分子と言えばアンモニアが一つの原因となりますが、アンモニアがどのような状態で飼育水内に存在するかで活性炭による除去ができるできないがきまります。一応、活性炭はアンモニアのイオンなども吸着しますが、アンモニアなどの処理を主に行うのはフィルター内での生物濾過をメインに考えるべきです。

活性炭の寿命について

活性炭が汚れや臭いの分子を吸着する能力は、活性炭の使用期間が長くなると徐々に落ちていきます。これは、上の図でも説明しているように、活性炭の表面にある汚れの分子を吸着すると、その活性炭の表面からは未結合手がなくなりますので、次の分子を吸着する能力はありません。

つまり、使用期間が長くなるほど汚れを吸着し、活性炭の表面の未結合種が減ってしまいますので、活性炭が汚れを吸着する能力がどんどん下がってしまうことになります。これが、活性炭の汚れの吸着能力が落ちる原因なのであり、吸着能力が落ちたときが活性炭の寿命になります。

ただし、活性炭の寿命は、水槽内の飼育水の汚れ具合や飼育している魚の数、また使用しているレイアウト素材の量にも依存します。そのため、一概に寿命を規定することはできません。

また、活性炭が汚れを吸着する能力は活性炭の量にも依存するので、大きな水槽に小さな活性炭のパックを用いても活性炭による汚れの除去効果は薄いです。大きな水槽には大きな水槽に対応した量の活性炭を使う必要があります。

平均的に考えると、水槽に適した活性炭パックの大きさで、寿命は約1か月程度かと思います。たまに、半年くらい同じ活性炭パックを使っている人もいますが、正直なところ活性炭としての効果は無くなっていると言えます。

活性炭の力を借りて水槽内の汚れや臭いを除去するためには、定期的な活性炭の交換を行っていくことが必要です。

「最近、飼育水の汚れが取れなくて…」と困っている方は、活性炭の交換が一つの解決策になったりします。

また、アクアリウム用の活性炭は基本的に再利用は不可能です。活性炭を再利用するには、活性炭に付着した汚れ分子を逆に脱離させるような処理が必要になります。これはアクアリウム用の活性炭パックを分解して行う必要もありますし、専用の薬品も必要なので、基本的に御家庭では再利用の処理は不可能です。

活性炭の最適設置場所は外部フィルターの中

活性炭の役割は上で説明した通りですが、では水槽の設備の中で、どこに設置するのが一番効果が高いのでしょうか?

基本的には、水流があり飼育水が活性炭の中を通過していくような場所がベストな設置場所になります。

そのような場所は水槽設備の中でどこでしょうか?

私の考える答えは「外部フィルターの中」になります。

外部フィルターの中には、リング濾材や球状濾材の次にウール材を設置するかと思いますが、そのウール濾材の上に設置するのが良いかと思います。(実際に私もそのように使っています。)

フィルターの上流側に活性炭を設置すると、目詰まりの原因になってしまうので、最も下流側に設置する事がフィルターの水流を低下させないという観点でお勧めです。

外部フィルターの中であれば、常に活性炭の中を飼育水が通過していく状況になるので、最大の効果を得られると思います。同じフィルターでも上部フィルターや壁掛けフィルターは、活性炭パックの中に飼育水を通過させる能力が低くなります。

本記事のまとめ

この記事では、アクアリウムにおける活性炭の役割について、活性炭が汚れや臭いの分子を吸着する原理から、吸着してくれる分子の種類や最適な使用方法などを詳しく説明させていただきました。

活性炭はその吸着力の強さから、飼育水の汚れの除去に大きく貢献をしてくれるので、積極的に導入したい濾材の一つとなります。

ただし、吸着力は良いのですが、寿命は比較的短いというデメリットもありますので、定期的に交換しながら使っていくことをお勧めします。

特に水槽の立ち上げ初期で、流木からの着色汚れが目立つときなどは、活性炭が良い働きをしてくれます。

水槽内の着色汚れなどにお困りの方は、一度活性炭を濾材として使用してみてはいかがでしょうか?

お勧めはの活性炭はブラックホールという商品です。これはその名の通り、吸着力がかなりよく、私自身も長く愛用させていただいています。

楽天市場「ブラックホール」