日本では子供から大人まで多くの方が知っているであろう「ザリガニ」ですが、2020年11月から特定外来生物に指定される方針となりました。
私も子供の頃から近くの池や川でたくさん捕まえてきて、今でも子供と一緒に飼育しているザリガニが飼育できなくなる!?と心配になったのですが、どうやら今回は一般的に知られているニホンザリガニとアメリカザリガニは外来生物への指定から除外になっているということです。
しかし、アクアリウムショップで販売されている海外から輸入された鮮やかな色をしたザリガニや珍しいザリガニが全般的に販売・飼育禁止になっていく予定です。
この記事では、ザリガニが特定外来生物に指定されることとなった経緯や、ザリガニが日本の生態系に与えてきた影響について詳細を紹介したいと思います。
ザリガニが特定外来生物に指定された経緯
ザリガニが特定外来生物に指定される議論がなされたのは環境省の「特定外来生物等専門家会合(第12回)」となります。
この会議の中で専門家によりザリガニを特定外来生物に指定することが妥当であるという意見が出され、2020年11月に正式に指定される方針が明言されました。
詳細な資料はこちらにリンクを張っておきます。 → 参考の資料 (環境省)
私が子供の頃にも近くの池に大量にアメリカザリガニが発生しておりましたので、正直なところザリガニ自体が特定外来生物に指定されるのは遅すぎるのでは?と思うところもあります。
しかし、近年はアクアリウムでのザリガニ人気も高くなり、より美しい体を持ったザリガニもどんどん構内へ輸入されている現状があります。今後それらのザリガニがアメリカザリガニと同様に爆発的に増えてしまう懸念があると考えると、それを防ぐために今回の決定に至ったのだと思われます。
2020年11月以降は、指定されたザリガニの販売・購入・移動等が制限され、違反した場合には懲役または罰金のある厳罰が下される可能性もあるので、アクアリウムを楽しんでいる方だけではなく、お子さんとザリガニを飼育したいと思っている皆さんも注意が必要です。
外来生物に指定されるザリガニの種類と指定の理由
外来生物に指定されるザリガニの種類
冒頭でも述べましたが、ザリガニが全て外来生物に指定されるわけではありません。実は、日本で最も有名なザリガニであるニホンザリガニやアメリカザリガニは、今回は外来生物への指定から除外されました。
ニホンザリガニは日本に古くから住む固有種で、北海道や東北地方に生息するザリガニになります。このニホンザリガニは外来生物ではないので、外来生物に指定されることが無いのは考えやすいかと思います。
アメリカザリガニが除外された理由は、あまりにも多くの数がペットとして飼育されているため、急に外来生物に指定すると多くのアメリカザリガニが廃棄されたりさっ処分されてしまう可能性があるためとのことです。これも生物の命を守るという観点では妥当な決断なのかと思います。
ですので、お子さんとアメリカザリガニを飼育している方は、2020年11月以降も安心して飼育を続けてあげて下さい。逆に、近くの小川に放流しないようにしてくださいね。
実際に外来生物に指定されるザリガニは以下の通りです。
■ ザリガニ科の全種
■ アメリカザリガニ科の全種 (ただし、日本に住み着いている有名なアメリカザリガニは除かれます)
■ アジアザリガニ科の全種 (ただし、日本固有のニホンザリガニは除かれます)
■ミナミザリガニ科の全種
つまり、上で紹介したニホンザリガニと日本に住み着いているアメリカザリガニ以外は全て外来生物に指定と言う内容になるのです。
各ザリガニが外来種に指定された理由
ザリガニ科の全種が指定された理由
特定外来生物であるアスタクス属やウチダザリガニ (下の写真) など、国内で既に丹保のんの生態系に被害を及ぼしていたり、将来的に被害を及ぼす恐れがあるために指定となりました。
国内にこれらが定着してしまうと、ニホンザリガニとの縄張り争いや、ニホンザリガニを補足してしまうことも理由に挙げられます。また、日本に自生する植物をハサミで切ってしまうことによる日本の植物生態系への懸念も指摘されました。
また、ザリガニ科の生物はザリガニペストや白斑病のキャリアになり得るため、日本の絶滅危惧種であるニホンザリガニを含む淡水生態系や養殖業への影響も指摘されました。
アメリカザリガニ科の全種が指定された理由
アメリカザリガニ科の中では、日本でも有名なのが下の写真のミステリークレイフィッシュですね。
日本でも誰かが放流したものが、池や川に生息していることが確認されています。ミステリークレイフィッシュは美しい体を持つのにも関わらず、大量に輸入され、かなり安価で販売されているので、日本国土での爆発的な増殖が強く懸念されています。ザリガニが外来生物に指定されるきっかけとなったのは、このミステリークレイフィッシュの存在では無いか、と個人的には思っています。
その他、特定外来生物であるラスティークレイフィッシュや、海外でも在来種に被害を出しているノーザンクレイフィッシュ等がこの科目に属しています。
ザリガニ科と同様に、ニホンザリガニとの競合や、植物の切断による植物への影響、病気の持ち込みなど、環境へ与える影響が大きいと判断されました。さらに、日本固有の淡水魚を捕食する力も強い科であるため、日本の淡水生態系に大きな影響を与える可能性が強く指摘されています。
アジアザリガニ科の全種が指定された理由
アジアザリガニ科が指定された大きな理由の一つは、寒冷地でも生き抜く力があることです。
ニホンの冬の寒さに耐えられないものであれば、自然繁殖が難しくなるのですが、アジアザリガニ科は北海道や東北地方の寒い冬を生き抜く力があります。
また、その北海道や東北地方にしか住んでいないのが在来種のニホンザリガニになりますので、ニホンザリガニとの住処の奪い合い等が懸念され指定に至りました。
植物の切断や淡水魚を捕食すること、また病気の持ち込みの原因になるという点は他のザリガニ科と同じように指摘されています。
ミナミザリガニ科の全種が指定された理由
ミナミザリガニ科の全種が指定された大きな理由は、既に海外でも在来種への甚大な影響を出しているケラクス属を含んでいることと、非常に大きな体を持つため、ニホンザリガニに対して競争力で優位に立ってしまうという点です
国内定着によって、ニホンザリガニが競争に負けてしまう点や、大きなハサミで植物を切断してしまう可能性もあるため、指定の対象に挙げられました。
また、上で紹介した3種のザリガニ科目と同様に、ザリガニペストや白斑病のキャリア (保菌者) になるという理由もあります。
ザリガニが日本で大繁殖してしまう理由
ザリガニは基本的に生命力が強く、様々な場所で生活ができる生き物です。これがアメリカザリガニが日本に広く分布してしまった一番の理由です。
そして、原産地がアメリカなどの比較的寒い地方であったりするため、日本の四季の中でも生き抜く力を持っていることも大きな理由です。
特に先に紹介しているミステリークレイフィッシュは単独で生殖活動を行う能力も持っているため、誰かが1匹だけ池に放流しても、あっという間に子孫を大量に残して行くことになります。これにより、1匹の混入により一つの池がミステリークレイフィッシュで覆いつくされるという事例が起こるのです。
また、ザリガニによっては近縁の他種との交雑も容易に起こす可能性があります。ニホンザリガニとミステリークレイフィッシュが交雑すれば、ニホンザリガニとは異なるザリガニが生まれ、日本の生態系が崩れてしまう原因になってしまいます。
さらに、ザリガニは雑食性が強く、様々なものを捕食します。日本固有の淡水魚だけではなく、水草や水生植物も食べます。つまり、魚ではなく植物がそこにあるだけで、その場所で生き抜く力を備えているということです。そのため、ザリガニが大量に池に生息することになると、水生生物の生態系だけでなく、植物の生態系も崩してしまう可能性もあるのです。
ザリガニは生態系を大きく変える生物である
ザリガニが日本の生態系に与える影響は、上で紹介した外来生物指定の理由の通りですが、実は本当に深刻な影響を与えています。
私が住んでいる地域にも、小さな池がありザリガニが大量に生息しています。地域の子供たちにとってはザリガニを捕まえることができる遊びの場ではあるのですが、生態系に与える悪い影響を目の当たりにする場でもありました。
生息しているザリガニはアメリカザリガニですが、そのアメリカザリガニが水草や水生植物を切り倒しているのです。
水生植物は切り倒されもどんどん新しい芽を伸ばそうと頑張るのですが、水草が切られたり倒されたりすると、そこに住む水生生物にとっては隠れ家を一時的に奪われてしまうことになります。
その池では、岸辺に近い浅い場所の水草は見事に切り落とされている場所が多く、魚が隠れることができず、魚が水辺に集まらない場所になっているのが現実でした。ザリガニからすれば、水生植物が無い方が獲物を捕獲しやすいと言えるのかと思います。
メダカやモロコなどの小さな魚は、隠れることが出来なければ容易にザリガニに捕食されるばかりではなく、ブラックバスやブルーギルなどの肉食魚にも見つかりやすく、格好の餌食になってしまいます。
ザリガニはブラックバスやブルーギルの様に、あっという間に魚を食べつくすことは無いかと思いますが、水辺の植物の生態系という大事な存在を崩してしまう危険性のある生物と言えるのです。
私が目の当たりにした外来生物で埋め尽くされたビオトープ
ビオトープと聞くと、水生生物や水生植物によって小さな生態系が完成された自然に親しみやすい場所と言うイメージがあると思います。
しかしながら、日本各地のビオトープにも外来生物たちが入り込み、日本古来の生物を追い出してしまうよう状況の場所が多くあります。
私のブログでも紹介している神戸にあるビオトープもその一つです。
子供と一緒にザリガニ釣りに行った時の事ですが、ザリガニ釣りを頼むことはできて良かったのですが、そこに生息していた主な生物は「ウシガエル」「アメリカザリガニ」「カダヤシ(メダカにそっくりな北アメリカ原産の魚)」でした。
大きな鮒を2匹確認することができましたが、それ以外は上記の3種の外来生物だけが住み着いていました。つまり、日本の固有種は住むことが出来ないビオトープになっているのですね。
このビオトープの中で頂点に立つのがウシガエル、その次がアメリカザリガニ、そして最後がカダヤシとなります。
カダヤシはウシガエルやアメリカザリガニに食べつくされてしまいそうなイメージがあるかと思いますが、繁殖力が非常に強いので減ることが無い状況です。カダヤシは体内で卵を孵化させて稚魚を産み落とすため、日本のメダカよりも繁殖力が強いです。グッピーやプラティと同じ卵胎生の繁殖をするため、どんどんビオトープの中で増えていきます。
つまり、ウシガエル、ザリガニ、カダヤシはどの種も減ることなく、ビオトープの中で外来種による生態系が完全に出来上がってしまっているということになるのです。
ビオトープと言うとメダカやヤマトヌマエビ、そしてトンボの幼虫のヤゴが泳ぐ場所をイメージされるかと思いますが、そのような日本の生き物っで確立されたビオトープが見られる場所の方が少ないのではないかと思います。
私たちアクアリストができることを考えましょう
少し前の私の記事で、タガメが絶滅危惧種に指定されて、アクアリウムショップで購入することが出来なくなったことを紹介しました。
そして、今回はザリガニと言うアクアリウムで人気の生物が法の規制を受けることとなります。
もし、輸入されたザリガニを日本国内の自然に放流することなく、飼育者が責任を持って最後まで水槽内で飼育をしたら、その外来種は日本国内で大繁殖し国内の生態系に影響を与えることはありません。
今回の法律による規制は、すべてはマナーを守ることが出来なかったアクアリストや業者がいるという背景があることに他ならないと思います。
もちろん、責任をもってザリガニを最後まで飼育しているアクアリストはたくさんいます。しかし、一部の人が飼育を放棄するだけで国内の生態系が積み木崩しのように崩れていきます。
今後、このようなことが続けば、アクアリウムを楽しむ領域が狭まるだけではなく、アクアリウムに関連する多くの輸入種が規制を受ける可能性も出てきます。
私達の子供の世代、そして孫の世代にも楽しいアクアリウムの文化を残せるように、一人一人がマナーある行動をしていきたいですね!
もし飼育することが困難になったら、近くのアクアリウムショップや水族館に相談する。または、同じくアクアリウムを趣味にしている方に飼育を依頼するなどの方法を取りましょう。ただ、外来生物法で指定されてしまった後は、譲渡や移動が出来なくなってしまいますのでご注意ください。
外来生物に指定されるされたザリガニは飼育できるのか?
この記事を記載している2020年9月初旬の段階では、まだ確定したことは言えませんが、従来の外来生物と同様の処置がとられるのだと思います。
正式に外来生物に指定される前に飼育していたザリガニは、指定後の6カ月以内に申請手続きを行えば、飼育していた生体に限って飼育を継続することが可能です。以下の環境省HPを確認し、申請手続きを行ってください。
こちらの環境省HPの内容が参考になります。
また、外来生物指定後にザリガニを飼育する事ができるか?と言う点については、一般的には飼育ができません。許可されるのは、水族館などで展示する場合や、学術研究用途で飼育を行い、自然に逃げ出す可能性が低い場合に限ります。
この記事の終わりに
この記事では、2020年11月に外来生物に指定される予定のザリガニについて、その経緯やザリガニが生態系に与える影響と共に御紹介をさせていただきました。
日本で最も馴染みのあるアメリカザリガニについては、2020年11月の外来生物指定が見送られることになったので、今飼育しているアメリカザリガニは継続して飼育する事が出来るので御安心下さい。ただし、今後の状況次第では、外来生物指定される可能性も十分に考えられますので、環境省の発表はなるべく確認しておいた方が無難だと思います。
ザリガニが外来種に指定されることを、あらためて考えると、これも結局仕方が無いことなのかと思います。アメリカザリガニと言う国内に定着してしまったものを見ると、現在アクアリウムで人気のザリガニも同じように繁殖をしてしまう可能性が捨てきれないからです。
アクアリスト一人一人が国内に放流しないことを心掛ければ良いのですが、それが出来ない現状があるので、法律で規制されてしまうことも理解はできます。
我々アクアリストができることは、これ以上アクアリウムの楽しみの幅を狭めないように、放流しないという当たり前の行動を取ることであると思います。
海外から輸入された美しい生態を今後も楽しんでいくためにも、マナーを守ったアクアリウム生活を楽しんでいきましょう!
【2022年5月1日追記】以下の記事では、アメリカザリガニの特定外来生物指定までの道のりを、時系列を追って紹介しています。