【タガメの希少種指定】自然とアクアリウムの共存の難しさ

令和2年2月10日施行の国内希少動植物種の追加によって、アクアリウムに関係の深い「タガメ」が新たに希少種に指定されました。

この追加指定を最初に知ったのは、近くのアクアリウムショップのサイトでした。

最初は「えっ!?」という驚きです。

私は田舎の生まれなので、小学生時代にタガメを何度か捕まえて、飼育した経験もあります。

そのため、このニュースを見た時、ちょっとショックも大きかったです。

追加指定の施行日から少し経ちましたが、あらためて考えると、この記事を書きたいと思い立ち、ブログに記すこととしました。

このように、国内固有の魚類や水生昆虫たちが新たに希少種に指定されていくと、アクアリウムの楽しみの幅が狭くなることを肌で感じます。

特にタガメは、アクアリウムにおいて最も人気の水生昆虫として長く君臨してきましたので、アクアリウムに与える衝撃も大きいです。


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国内希少野生動植物種とは?

国内希少野生動植物種の指定の目的

皆様、目的については良くご存じだと思います。希少種指定の目的は「絶滅の危惧される種を保存すること」です。

人の経済活動および人の生活域の拡大による自然破壊によって、日本古来の動植物の中に絶滅の危機に瀕している種が多くあります。

枯れた木々の写真

人が何も考えずに行動しなければ、我々が知らないところその種は絶滅に向けて数を減らしますが、人が保護活動を行えば、絶滅は未然に防ぐことができます。

絶滅に向かいそうな種について、国が希少野生種に指定することで、国内での個体数減少を防ぐことができます。

地球上では新しい種の誕生と、種の絶滅が繰り返されておりますが、人間の活動が原因で希少種に指定される動植物が出てしまうこと、絶滅種が出てしまうことは、本当に恥ずべきことです。

しかし、その危機を察し、種を保存する力があるのも人間です。

地球上の生物の最上位に立つ「人間」が対策をし、そのルールを一人一人が守ることで、後世に長く種を保存していきたいですね。

希少種に指定されると何が変わるのか?

希少種に指定されるということは、上記の通り、絶滅する可能性が危惧される種になります。

したがって、捕獲や販売など様々な面に制限がかかるようになります。

現時点で指定されていない種も、将来的に指定される可能性もありますので、新しく魚や水生昆虫の飼育を始める際には、環境省のHP等で指定の状況を確認しておきましょう。

では、具体的に、どのような制限がかかるのかについて次に見ていきましょう。

渓谷の写真

国内希少野生動植物種の枠組み

国内の希少野生動植物種に対して、許可されている行為次の表の通りです。内容は環境省HPを参考にしております。

希少種一覧

国内希少野生動物種に指定されると、最も厳しい制限がかかり、基本的に研究目的や種を保護するための繁殖目的でないと飼育などができなくなります。

また、希少種の中でも少し規制の緩和された第一種に指定されてしまうと、譲渡はできますが、販売・譲渡・採取が原則禁止となります。

第二種に指定されると、個人的に自然の中で捕獲はできますが、販売や販売目的の捕獲が禁止されます。

今回のタガメは、第二種に指定されましたので、販売と販売目的の捕獲が禁止になりました。つまり、ペットショップからタガメが姿を消したのです…。

タガメが指定された特定第二種について

自然界に生息する昆虫や魚は、乱獲や自然破壊が起こると数が著しく減少することは当たり前の事実です。今回希少種に指定されたタガメは、自然破壊による個体数の減少もありますが、人による乱獲による個体数減少が指定の主要因です。

タガメは自然破壊によって数を減らしてはいますが、人が乱獲をしなければ、自然の中で繁殖し個体数を維持できる種になります。

生物自らの力で繁殖し数を維持できる種は、人が個人で少数を捕獲をしても自然界の個体数に甚大な影響を与えることはありません。

その観点で、販売 (販売目的とした乱獲) を目的としない、個人による捕獲が許可された「第二種」という枠組みが作られました。

第二種は上の表にある通り、販売目的ではない個人での採取は許可されています。つまり、子供たちが自然の中でタガメを発見して、それを捕まえたり飼育する行為は許されています。

第一種になると捕獲も禁止されるので、今回の第二種というのは個人的には胸をなでおろす内容です。

タガメってかっこいいし、子供たちにとっては憧れる水生昆虫ですよね!

その子供たちの楽しみ、捕獲することへの憧れが無くならなくて本当によかった。

渓谷のもみじの写真

タガメについて

この記事は、タガメの紹介をメインとしていないのですが、簡単にタガメの紹介をしておこうと思います。

タガメはタガメ亜科のタガメ属に属する水生昆虫です。

実は、国内に存在する日本固有の水生昆虫としては、最大の大きさを誇ります

体の色は褐色~濃茶色で、大きさはメスのほうが大きく6cm前後、オスは5.5cm前後まで成長します。

一番の特徴となりますが、前足が「鎌」のような形をしており、この鎌を使って餌となる生物を捕獲します。餌となる生物は小魚や昆虫など、捕獲できる生物であれば何でも食べてしまいます。

また、羽をもつため、夜を中心に飛んで移動をすることもできます。飼育していると、水槽の中で羽をバタつかせることもあります。タガメが数kmの距離を飛んで移動することも有名な事実です。

生息域は日本全土に分布していますが、基本的に自然の豊富な環境にしか生息しないです。都会の真ん中の水路で見つけることはできません。


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タガメを都会では入手することが「超」困難になった

都会に住む皆様は、近くの川でタガメを見かけたことがありますか?

多分、無いと思います。

私は小学生の時に自ら捕獲して以来、もう20年以上、天然のタガメを見ていません。タガメは、
・周囲や川底が舗装されておらず
・水草や植物が豊富で
・餌となる生物が豊富に存在する
・水質がとてもきれいな河川や池
にしか生息しません。また、水田地帯の水草の豊富な水路でも見かけることができます。

都会に住む方からすると、タガメを入手する方法は、ペットショップでの購入という手段しかなかったはずです。

しかし、今回の希少種への指定によって、販売自体が不可能になったので、タガメを入手するには自然界で捕獲するしかないのです。

タガメを飼育したい方、どこに探しに行きましょう…。タガメは水生昆虫の中でも、個体数が少ない昆虫です。直ぐに見つかることも無いです。

自然の中に探しに行くことができない方は、既に飼育されている方から譲渡いただくことくらいしか、入手の道はありません。

タガメの希少種指定と自然との共存

タガメの思い出と都会のアクアリウム

私が最初にタガメを捕まえたのは、私の記憶の中では小学校3年生か4年生の時です。夏休みに友達と近くの川に魚取りに行き、流れの緩やかな場所に潜んでいたタガメを発見しました。本当に大興奮だった瞬間であったと覚えています。

図鑑に掲載されている、あのカッコいい憧れのタガメが目の前に現れたのですから…。喜びすぎて、直ぐに捕まえて家に持って帰って飼育しました。(1週間くらいでお星さまにしてしまいましたが…泣)

私の実家は静岡県の田舎ですが、過度に舗装されていないような河川が多くあり、自然が豊富な場所でした。小学校時代、数回タガメを捕まえましたが、中学生になって今日まで天然のタガメを見たことがありません。タガメに見た目の似ているタイコウチは何度か見ましたが…。

男性の背中と大自然

私が今住んでいる関西は、大都市圏のため工業地帯や住宅が密集しており、子供の頃に遊んだ綺麗な川はどこにもありません。治水事業で川がコンクリートに囲まれ、水草や植物はありますが、本来の自然の姿とは言えない景色です。

「都会暮らしの子は、本当に自然を相手にできないなぁ。」と感じたことが何度もあります。

タガメだけではなく、カジカやオイカワ、ウグイに鮎、そういった日本淡水魚を自分で捕まえることができないことが残念です。近くのアクアリウムショップでオイカワが400円で販売されているのを見て驚きました。(小学校時代、川でバケツ一杯捕まえていた魚なので…)

販売されるオイカワを見た時、都会では生体が販売でしか手に入らないのだなぁ…と思わされました。

今回のタガメの希少種指定は、そういった都会での生体入手事情が大きく影響しているのだと考えさせられます。

タガメの希少種指定に思うアクアリストの責任

タガメの希少種指定は、自然破壊だけが原因ではありません。

最も大きな原因は、人の乱獲です。もちろん、乱獲の目的は販売による利益の確保、つまり商業の成り立ちです。そしてその背景には、鑑賞目的というアクアリストのタガメが欲しいという「欲」があります。

「この魚を飼育したい」「あの魚の方が綺麗」「あっちの方が大きくて元気そう」…ペットショップで、このような「命の選別」をしていませんか?

夕日とハート

この記事の筆者である私も、そのような命の選別をしてしまっているのは事実です。

お金さえ払えば、自分が欲しい生体が手に入ってしまう世の中です。私も含めて、少し魚や水生生物の命の重さを軽んじているところがあるのかと感じます。

犬や猫だと、少し感覚が違うのではないでしょうか?

同じ哺乳類だからでしょうか?

私の仕事は電子工学の開発で、環境活動家ではありませんが、自分の欲を満たすだけの趣味は趣味にならないと思いますし、制限が必要になることも理解できます。

その一つの制限が、タガメの希少種指定だと思っています。

20年後「じいちゃんが子供の頃には、タガメという水生昆虫がいてなぁ…」という会話を孫の世代にしないためにも、「自制」のあるアクア業界にしていきたいですね。