水槽とフィルターの生物濾過を簡単に評価・確認する方法 -pH測定を用いた実例を紹介-

新たに水槽を立ち上げる際に、アクアリスの皆様が最も気になるポイントの一つが「フィルターの濾過バクテリアがしっかりと立ち上がったか否か?」という点だと思います。

アクアリウム管理のベテランの方であれば、濾過バクテリアが立ち上がるのに必要な期間を肌感覚で分かるかもしれませんが、ゼロから水槽を立ち上げる初心者の方からすると濾過バクテリアの立ち上がり具合は判断がつきません。

「フィルターを稼働して何日経過したから大丈夫だろう」とか「パイロットフィッシュが生きているから大丈夫だろう」という指標はあるかもしれませんが、実際に濾過バクテリアが立ち上がっているか否かは判断が難しいですよね。

この記事では、濾過バクテリアが立ち上がったか否かを判断する簡単な方法と実例を紹介したいと思います。

具体的には飼育水のpHを測定するという方法になりますが、精度は少し落ちるかもしれませんが、濾過バクテリアの立ち上がりを判断するには十分な方法だと思います。


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フィルターの濾過バクテリアは目視確認不可能

濾過バクテリアがフィルターや水槽の中に定着したか否かは目視では確認することができません。

バクテリアは目に見えない小さな存在のため、フィルターの中の濾材を取り出したり、水槽の中を凝視してもその存在をチェックできません。

電子顕微鏡などのミクロの世界を観察できる装置を使えば観察が可能なのかもしれませんが、数千万円もするような装置になるので家庭での使用には非現実的です。

そのため、濾過バクテリアが定着したか否かは、別の方法・指標を用いて行う必要があります。

ざっくりとしたことを言ってしまえば、水槽を立ち上げてからバクテリアの素を投入し、約2カ月もすればフィルターや水槽内の濾過バクテリアは概ね立ち上がるでしょう。

しかし、それは長年の経験と勘に頼った評価方法であり定量的に判断することはできません。

そこで、この記事では飼育水のpHを測定するという方法で濾過バクテリアの立ち上がりを確認する方法と実例を紹介していきます。

pHという化学的な指標があれば、濾過バクテリアの立ち上がり具合を定量化して判断することができますね。

濾過バクテリアの立ち上がりを簡単に確かめる指標はpH

上記の通り、フィルターや水槽内の濾過バクテリアの立ち上がりを確認する方法は、飼育水の「pH」を測定する方法となります。

pHは高校の化学の授業などで出てくる物理量になりますが「水素イオン濃度」を表しています。

皆様ご存じかと思いますが、pH=7の時には中性で、pHが7を下回ると酸性、pHが7を上回るとアルカリ性となります。

このpHと濾過バクテリアがどのような関係にあるのか?と言う観点が重要になります。

濾過バクテリアには様々な種類がありますが、基本的には魚の排泄物や残餌を濾過バクテリアが分解し、最終生成物として硝酸が生成されます。

この濾過の過程については、下の私の過去の記事で原理を紹介していますので、もしよろしければそちらをご参照ください。

硝酸は名前に「酸」という漢字が入っている通り酸性の水溶液になります。

つまり、フィルターや水槽内のバクテリアが立ち上がれば、水槽の飼育水は必ず酸性に傾いていくことになります。

飼育水をアルカリ性に傾ける材料を使っていれば、飼育水がアルカリ性に傾きますが、何もしなければフィルターの稼働で飼育水は酸性に傾いていきます。

濾過バクテリアが立ち上がっていない状態であれば、飼育水はなかなか酸性に傾いていきません。

そのため、飼育水のpHを測定すれば、濾過バクテリアが立ち上がったか否かを簡易的に判断することが出来るようになるのです。


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飼育水のpH測定には市販のpH試験紙を用いる

「pH測定」と聞くと、とても難しいことをするのではないか?というイメージがあるかと思います。

しかし、飼育水のpHを簡単に測定するキットがテトラさんから発売されています。

下の写真にあるように、3つの試験紙の色変化を用いて、その色からpHの値を簡単に測定できるというものです。

このキットはアクアリウムショップの多くで取り扱われており、安価で入手ができるので一つ持っておくと便利です。

熱帯魚の水槽だけでは無く、ザリガニの水槽などの管理にも用いることができます。

水槽立ち上げ直後と1ヵ月後の飼育水pH測定結果

では実際に、立上げ直後の水槽と立ち上げから約1カ月程度が経過した水槽でのpH測定の実例を紹介します。

方法としては、換水を行った直後 (飼育水のpHが7で中性の状態) から数日間、毎日pHを測定するという方法です。

濾過バクテリアが立ち上がっていれば、時間の経過と共にpHの値が7から徐々に下がっていく傾向にあるはずです。

今回は私の管理しているコリドラスの水槽と金魚の水槽で実験した時の結果を掲載します。

コリドラス水槽での実例

以前の記事で、25cm規格の水槽でコリドラスを飼育していることを紹介させていただきました。

この記事の中では、水槽が立ち上がった後の状態での飼育水のpH変化を紹介させていただいています。

しかし、実際には水槽の立上げに際して、立ち上げ当初にpHを1週間測定した結果もあるので、その結果との比較を次のグラフで紹介します。

水槽の立上げ当初は、pHを測定しても3日間はpH=7の状態が続き、その後pH=6.5まで酸性化が進むも、1週間経ってもpH=6.5という状況でした。

それに対して、水槽を立ち上げた1か月後の結果は、換水後2日でpHが6.5まで落ち、4日目にはpH=6まで飼育水の酸性化が進んでいます。

つまり、水槽立ち上げにより濾過バクテリアが立ち上がったことで、生物濾過が機能した結果であるということができます。

金魚水槽での実例

次の実例は金魚の水槽になります。

以前の記事で紹介した通りですが、小さな水槽で飼育していた金魚を、新しく立ち上げた45cm規格の水槽で飼育を開始しました。

この金魚水槽についても、立ち上げ当初と立ち上げから1カ月後に上記のコリドラス水槽と同じ実験を行っています。

その結果が次のグラフになります。

こちらの結果もコリドラスの水槽の結果と同じで、立ち上げ当初は換水した日から4日間はpH=7の状態が続き、生物濾過がほとんど聞いていないような状態です。その後、5日目にpHが6.5まで下がっています。

それに対して、水槽の立上げから1カ月後の時点では、換水から2日目にpH=6.5に下がり始め、1週間後にはpH=5.5まで飼育水の酸性化が進んでいました。

金魚は排泄物が多いのでその分だけ濾過バクテリアが生成する硝酸の濃度が高くなります。そのため、濾過バクテリアが立ち上がっていれば、酸性化がどんどん進んでいきます。

これらの例のように、水槽のpHを測定することで、濾過バクテリアの立ち上がり方が定量的に判断できるようになるのです。


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水槽・フィルターが立ち上がると飼育水の透明度が向上

では、水槽内やフィルターの中に濾過バクテリアが定着したことを簡単に確かめる方法は、pH測定しかないのでしょうか?

実は、飼育水の「見た目」で濾過バクテリアの立ち上がり具合を評価する方法が一つあります。

それは「飼育水の透明度」です。

この方法はpH測定の様に定量性が無いのが残念なところではあるのですが、バクテリアの立ち上がりを判断することができる一つの方法です。

新しく水槽を立ち上げた時って、飼育水が白く濁っているような状態になりませんか?

少なくとも私が新しく立ち上げた水槽は、立ち上げ後のしばらくの間は飼育水がうっすらと白濁しています。

その白濁の原因は、水中に微小な魚の糞や餌の微粒子が漂っていることです。

フィルターや水槽内の濾過バクテリアが立ち上がっていれば、魚の糞や残餌の微小なゴミは分解されていくので飼育水の透明度は改善されます。

しかし、濾過バクテリアが立ち上がっていない初期の状態ですと、いつまで経っても白濁は解消されません。

逆に言えば、濾過バクテリアが立ち上がってくれれば、飼育水の透明度は自ずと上がっていくのです。

つまり、飼育水の透明度は濾過バクテリアの状態を判断する一つの指標にもなるということなのです。

私が初心者の時、水槽を立ち上げた直後、アクアリウムショップの水槽の様に透明度の高い飼育水が実現できずにいました。

原因がわからずに、微粒子の凝集剤などを投入して白濁を解消しようとしたこともありましたが、根本的な解決には至りませんでした。

しかし、自分でも気付かぬうちに、いつの間にか白濁は解消されていました。

つまり、そのタイミングが濾過バクテリアが有効に立ち上がった状態だと言えるのです。

当時は飼育水の白濁解消の理由が全くわかりませんでしたが、アクアリウムに精通するようになり、濾過バクテリアの重要性を知ると、その答えを理解することが出来るようになりました。

水槽の管理における濾過バクテリアの重要性を身をもって知ることができた一場面であったことを今でも鮮明に覚えています。

この記事の終わりに

この記事では、水槽やフィルター内の濾過バクテリアの立ち上がり具合を定量的に把握する方法として、飼育水のpH測定を用いた方法を実例と共に紹介させていただきました。

濾過バクテリアが立ち上がると、魚の糞や残餌が分解されて最終的に硝酸が生成されます。

そのため、濾過バクテリアの立ち上がりと共に飼育水は酸性に傾いていく特徴があります。逆に、濾過バクテリアが立ち上がっていなければ、飼育水は中性に近い状態で維持される傾向となります。

また、濾過バクテリアが立ち上がると、飼育水の透明度を上げる効果もあるので、見た目でも濾過バクテリアの立ち上がりを感じることが出来るようになります。

この記事で紹介した実験結果は、あくまでも私の水槽での結果となります。

皆様の管理されている水槽では、pHの変化に差異があるかと思います。一度、御自身の水槽でpHの調査をしてみてはいかがでしょうか?