淡水アクアリウムを楽しまれている方であれば、一度は飼育したことがあるであろう魚種が小型カラシン科の熱帯魚だと思います。
南米やアフリカに生息ている華やかな体色の小型カラシン達は、過去も今もアクアリストの目を引く存在であることは間違いありません。
近年は国内でのブリード技術も向上し、比較的安価で入手が可能であることや、種類が豊富な事も人気の要因かと思います。また、毎年のように新しい品種の発見やブリードによる品種改良も進んでおり、マニアの方も珍しい個体を集めるという楽しみがあります。
そんな小型カラシン科の熱帯魚の中でも、黒色系統の美しい魚として有名なのが「ブラックファントムテトラ」となります。
大きな背びれを持ち、同種同士で威嚇し合う時に身らえる「フィンスプレッディング」は、体は小さいながらもとても美しいものがあります。
この記事では、ブラックファントムテトラの飼育方法について、筆者の飼育経験を基にして注意点なども交えながら紹介したいと思います。
ブラックファントムテトラの概要
ブラックファントムテトラは、ブラジルのネグロ川水域を原産とした、小型カラシン科の魚になります。
下に写真を掲載しますが、骨が透けて見える透明感ある黒い魚体に、長く伸びた背ビレ、そして体側にあり漆黒の斑点が特徴の熱帯魚となります。
熱帯魚と言うと、青や赤といったカラフルな色を想像される方が多いかと思いますので、熱帯魚の中では比較的地味な印象というのは否めません。
しかし、黒色の魚と言うのは、どのような水槽・レイアウトにもマッチするというメリットを持っています。
例えば、魚ではありませんが、黒色の車はどんな家の色にもマッチしますし、街並みや風景にも溶け込みますよね!それと同じで、水草や流木を背景にしても、とてもしっくりくる落ち着いた水槽の水景が出来上がります。
ですので、黒色の魚体と言うのはマイナスポイントでは無いんですよね!
ネオンテトラやレッドテトラ等のカラフルな魚と混泳させると、実は黒い熱帯魚は目立ちます。
また、水質についても特段注文を付けてくるような魚ではありません。日本の水質でも飼育ができ、多少水質や水温が変わっても適応してくれる比較的強い魚です。
小型カラシン科の中には入手自体が難しい品種もありますが、ブラックファントムテトラは入手も比較的容易です。多くのアクアリウムショップで取り扱っている品種ですし、オンラインでも入手が可能です。
そのため、初心者からベテランさんまで、飼育を楽しむことができる熱帯魚であると言えます。
ブラックファントムテトラに適した水槽と環境
ここからはブラックファントムテトラの飼育に必要な設備や管理方法について、簡単にまとめておきたいと思います。
水槽のサイズは小さくてもOK
適正な水槽のサイズについては、ブラックファントムテトラの場合には、飼育する数によって変わってきます。
体のサイズは3cm~4cm程度ですので、小さな水槽でも飼育が可能です。
例えば、5匹くらいを飼育するのであれば小さな25cm水槽でも十分飼育はできます。
しかし、水質維持の観点で考えると、10匹を同時に飼育する場合には、少なくとも30cm以上の水槽サイズが好ましいです。また、20匹程度になると60cm水槽が必要です。
魚の数が過密になった水槽は、水質の悪化が速いだけでは無く、お互いに攻撃するような仕草も起こり得ます。下でも紹介しますが、ブラックファントムテトラは小型カラシン科の魚の中でも少し縄張り意識が強い傾向があります。
そのため、過密になり過ぎることだけは注意して飼育数と水槽を選択することになります。
フィルターは水槽に合わせた性能のものを用意
小型カラシン科の魚は、糞の量もそこまで多くないですし、餌も消化の良い人口飼料を使うことが多いことからも、そこまで水質悪化が早いわけではありません。
そのため、過剰な性能のフィルターを用意する必要も無いです。
壁掛けフィルター、上部フィルター、外部フィルターであれば、水槽のサイズにあったものを用意すれば問題無く生物濾過が間に合います。
小さな30cm以下の水槽であれば壁掛けフィルター、60cm水槽であれば上部フィルターか外部フィルターを用いるという決め方で問題はありません。
水温・水質などの飼育環境
まず最初に水温ですが、ブラックファントムテトラは熱帯魚ですので、日本の寒い冬には適応していません。
そのため冬には水槽用ヒーターを導入して、水温を維持する必要性があります。
適正温度は、年間を通じて25℃前後となります。私自身も飼育しているブラックファントムテトラの水槽は常に25℃で管理しています。
次に水質 (pH) です。
基本的に国内繁殖したブリードのブラックファントムが販売されているので、水質はそこまで気にしなくて良いと思います。
日本の水道水はpH=7前後となっているので、カルキ抜き処理をして水温を合わせてあげていれば、換水時に水道水を使っても全く問題無いです。
もし、原産地であるブラジル・ネグロ川水域で採取されたワイルド個体を飼育する場合には、pH=6程度まで下げると健康的な体と発色が維持しやすいです。しかし、ワイルド個体でも日本のアクアリウムショップでしばらく飼育されているような個体の場合、日本の水質に慣れていることも考えられます。
ですので、pHと言う観点では、そこまで気にしなくても良いというのが個人的な意見です。
餌は何でもよく食べる
最近では小型カラシン科の魚専用に餌が販売されているので、それらを用いるのが最も安心ですね。
ただし、小さな粒形の餌であれば何でもよく食べます。
浮上性、沈下性に関わらず、餌を与えればしっかりと食べるので、餌を食べないことで心配になることは無いかと思います。
ただし、餌の与えすぎにだけは絶対注意が必要です。
小型の魚になるので、餌を与え過ぎるとあっという間に肥満体質になります。そして、消化不良などが原因で腹水病などの重篤な病気に罹ることが多々あります。
私が飼育していたネオンテトラが腹水病になったことがありました。原因は特定できていませんが、餌の食べ過ぎも一因と言われることがあります。下のリンクで紹介しているので、ご参考になれば幸いです。
ブラックファントムテトラは他の魚と混泳できる?攻撃性はあるの?
ブラックファントムテトラは、下でも紹介しますが「フィンスプレッディング」という行動を起こします。
これは、ブラックファントムテトラ同士で威嚇し合うような行動になるのですが、ヒレを大きく広げて自分を大きく見せるような行動になります。
ブラックファントムテトラの場合、この行動もあることから、縄張り意識や力関係を付けたがる傾向にあるように思います。
オス同士で喧嘩しているような素振りをしますし、他の魚に少し向かっていくようなこともあります。
自分よりも体の大きな魚には張り合うような事は無いのですが、レッドテトラや小さなグリーンネオンテトラ等に対しては強く当たるような振る舞いも見られました。
そのため、他の魚と混泳させることを考える時には、ブラックファントムテトラと同じくらいの体格を持っている性格で温和な熱帯魚を選ぶと良いと思います。
お互いにヒレを傷つけあうような事は無いですが、威嚇が原因で鰭が裂けてしまうような事もあり得ますので、少しだけ気を付けてあげる必要はありますね。
オスとメスで見た目と色が異なる!
熱帯魚の種類によっては、オスとメスが見た目で全く分からないものがありますが、ブラックファントムテトラは見た目で雄雌が分かりやすいです。
下の写真がブラックファントムテトラのオスになります。
オスは体が全体的に黒や灰色をしている事が特徴で、メスに比べてヒレが大きく長くなります。
それに対して、次の写真がブラックファントムテトラのメスになります。
オスに比べると体・尻ビレ・胸ビレが赤くなる傾向になっていることが分かるかと思います。
この違いがあるので、ブラックファントムテトラのブリードを楽しみたいときなどは、見分けを容易に行うことができます。
また、メスについては赤色が体に出てくるので、餌による色揚げの効果もありそうです。
「完全に黒い個体 (オス) よりも色が入っている方が良い」という方は、メスを選んで飼育すると良いかと思います。
ブラックファントムテトラは同じ水槽で複数匹を飼育しましょう!
では、最後のトピックスとして、ブラックファントムテトラは複数匹を同時飼育したほうが良いという点について記載したいと思います。
小型カラシン科の魚は自然の中では群泳して泳いでいる場合が多いので、複数匹を同時に飼育したほうが魚に安心感を与えることができます。
それ以外にも「鑑賞性」と言う観点で考えた時に、以下の様なメリットが生まれてきます。
単独飼育だと隠れてしまいます…
小型の魚は基本的に臆病な性格を持っています。
自然界では自分たちが肉食魚や鳥などから一番狙われやすいことを知っているので、それなりに事項防衛の知識を持っています。
その一つが隠れるという能力です。
これは水槽の中でも同じことが言えます。
多数の仲間と一緒に泳ぐ習性のある魚を1匹だけで飼育した場合、水槽内で安心感が無くなるため、常に警戒心の強い状態になり物陰に隠れてしまいます。
ブラックファントムテトラも同じような性格を持っているで、水槽の前面に出てきてもらうためには、少なくとも3匹以上で飼育する事が望ましいと思います。
水槽内で隠れてしまう魚の原因や解決方法、またその実例などは以下のリンクで紹介しています。
複数飼育するとフィンスプレッディングが見られて美しい!
上でも少し紹介をしておりますが、ブラックファントムテトラは、下の写真の様にヒレを大きく広げてお互いに威嚇し合うような行動を起こします。
これをフィンスプレッディングと言います。フィンは「ヒレ」、スプレッディングは英語でspreadingと書き「広げる」という意味となります。
このフィンスプレッディングは、ブラックファントムテトラ同士で行う仕草になるため、ブラックファントムテトラを単体で飼育していると見る機会が少なくなります。
フィンスプレッディングはお互いに自分の大きさや美しさを競い合うような意味合いもあり、喧嘩をしているように見えるのですが、決して傷つけあうものでは無いので心配はいりません。
ヒレの大きな魚はヒレを大きく広げる美しさを楽しむのが鑑賞性の醍醐味でもありますので、複数匹を飼育してフィンスプレッディングさせ合う環境を作ってみて下さい。
この記事の終わりに
この記事では、小型カラシン科の「ブラックファントムテトラ」について、筆者の飼育経験から飼育場の注意点やおすすめの飼育方法などを紹介させていただきました。
黒い熱帯魚と言うと、どうしてもネオンテトラやカージナルテトラの様な華やかさは無いように思われがちです。
しかし、黒い魚だからこそ様々な魚との混泳時の色相性が良かったり、大きなヒレを広げる姿の美しさを味わえるというメリットもあります。
他の種類の魚との混泳も問題無い熱帯魚になりますので、水槽の一員としてお迎えしてみてはいかがでしょうか?