淡水アクアリウムに導入する水草の中で、最も有名なのがアヌビアス属ではないかと思います。
アヌビアスには光量の強いLEDライトは不要で、液体肥料を与えなくても成長するため、誰でも簡単に水槽の中で栽培を楽しむことができます。葉が大きく厚いため、魚やエビの食害に合うこともありません。
また、種類も豊富であり、稀少な品種をコレクションする楽しみもあります。
しかし、唯一のデメリットとしてコケが生えやすいということが挙げられます。アクアリストの誰もがアヌビアスを栽培したことがあり、そしてアヌビアスに生えるコケや藻に悩まされたことでしょう。
この記事では、アヌビアスに発生するコケや藻を抑制するために必要な水槽の管理方法 (主にライトについて) や考え方について記載したいと思います。
アヌビアス栽培でコケが発生する理由
アヌビアスにコケが発生しやすい理由は大きく分けて2つあります。
一つは一般的にも言われている成長速度が遅いこと、もう一つは葉の大きさが大きいということです。その2点を詳しく紹介していきます。
成長速度がコケよりも遅いこと
まず最初に、アヌビアスの成長はとても遅いです。
比較的弱い光でも育つ耐陰性の水草ということもあり、成長速度は他の水草に比べると半分以下の速度です。
実際にアヌビアス・ナナの成長速度を測定した記事が下のリンクになりますが、1ヵ月経っても茎の部分が2cm程度しか伸びません。また、葉の数も1ヵ月に2枚しか増えないという超スローな成長でした。
そのため、コケが成長する速度の方が速いため、あっという間にアヌビアスのまわりをコケが覆ってしまいます。
成長速度の速い水草であれば、コケや藻が成長する前にどんどん伸びていくので、コケや藻の発生が気になりにくくなります。
アヌビアスには、上で紹介したアヌビアス・ナナに加えて様々な種類がありますが、どれも同じように成長速度が遅いです。そのため、特に対策をしない限りは、どの種類のアヌビアスを育ててもコケや藻に悩まされる可能性が高くなります。
葉の大きさが大きい事
もう一つは葉の大きさが大きい事です。
淡水アクアリウムに用いられるアヌビアスは、基本的に葉の大きさが他の水草よりも大きいです。
そのため、一度コケが発生し始めると、葉の上を這うようにしてコケが広がっていきます。そのため、コケが生えた時に見た目の悪さが目立つ水草でもあります。
アヌビアスは基本的に鮮やかな緑色や黄緑色の葉を持つことから、茶ゴケや黒髭苔が生え始めると、とても見た目が汚い状態になってしまいます。
下の写真は、アヌビアス・ナナの葉に茶ゴケが生え始めた様子の写真です。最初のうちは目立ちにくいのですが、茶色い斑点の部分は1週間もあればアヌビアスの葉を覆いつくすくらいに成長します。
また、葉が大きいということは、コケの胞子がアヌビアスの葉に着床して増え始める確率を上げるということにもなります。
さらに、葉の多い水草や成長速度の速い水草であれば、コケが発生した部分を切除することができますが、アヌビアスは成長も遅く葉の数もそこまで多くないので、コケ発生部を易々と切除することはできません。そのため、コケの生えた葉を残しておくことになり、結果的に株全体がコケで覆われるという事態になります。
コケ取り生体では太刀打ちできない場合が多い
アクアリウムには、ヤマトヌマエビやミナミヌマエビ、そしてオトシンクルスのような優秀なコケ取り生体が存在します。
しかしながら、アヌビアスの葉に発生したコケは実は葉の細胞に入り込んで発生していることが多いため、コケ取り生体では太刀打ちできない場合が多いです。
アヌビアスの葉の上に生えた糸状の藻であれば、エビ達が切断して食べてくれます。しかし、茶ゴケの様に薄い膜を張った様に成長するコケは、大きな体のヤマトヌマエビであってもコケを完全に除去することは難しいです。
下の写真は、オトシンクルスとヤマトヌマエビにコケ取りを頼んだアヌビアス・ナナの葉ですが、この状態よりも綺麗にしてくれることはありませんでした。指で擦ってみたのですが、全くこの茶ゴケは除去できませんでした。
そのため、アヌビアスの葉のコケは発生した後に対処するのではなく、発生を未然に防止することの方が10倍くらい重要になるのです。
【重要】苔の発生しない環境 (ライトの条件) を知ること
コケを防止するためには、コケの発生しない環境を知ることです。
ライトは明るすぎないこと、ライトの点灯時間は減らすこと等の一般的に知られている知識を知ることでは無く、実際に試して様々なトライ&エラーを繰り返すことで得る「自分の水槽の管理方法」です。
以下で、この点について、私の考えるところを少しだけ記載させていただきたいと思います。
重要なのは知識では無く「経験」と「実験」
インターネットで「コケ 防止方法」と検索すると、様々なコケの防止方法が教科書の様に出てきます。例えば、ライトの点灯時間を1日当たり6時間以内にすることや、水替えの頻度を改善すること等です。
しかし、当たり前ですが、コケを抑制する最適な方法はそれぞれの水槽ごとに異なっているため、インターネットで得られる情報が全て正しいとは限りません。
つまり、インターネットでの情報は単なる知識でしかないのです。重要なのは、自ら自分の水槽に最適な管理方法を見つけることです。
ちょっと水槽の管理方法を変えてみて、
「あれ?なぜかコケが発生しないぞ…。」
「コケの成長速度がいつもより遅いなぁ…。」
という変化に気付くことができたら、それが皆さんの管理する水槽でのコケ抑制の入り口になります。
インターネットに掲載されていた方法をやってみてもコケが無くならない…と言っている方、それはちょっと甘い考えだと思います。そんな簡単に解決出来たら、アクアリウムで苔の問題が話題に上がることはありません。
私もアクアリウムを始めた当初は、水槽の中がコケだらけでした。綺麗な龍王精機も茶ゴケと黒髭苔に覆われてしまい、配管や水槽のガラス面にも大量のコケが発生した経験が有ります。
そんな経験を繰り返しながら、最適な管理方法を見つけていくのがアクアリウムという趣味なんだと思います。
コケが発生していない水槽の例 (コケを無くすヒント)
私が管理する水槽で、実際にコケがほとんど発生していない環境を紹介しておきます。
まず最初の水槽はコリドラスを飼育している25cm水槽ですが、この水槽は特別な事は全くしていないのですが、コケが全く生えません。アヌビアスは導入していない水槽ではありますが、水槽のガラス面、フィルターの配管、ヒーター、レイアウトの石…すべてにコケが生えません。コケが生えていない例として紹介させていただきました。
何故コケが生えないのでしょうか?
答えは簡単です。ライトを全く使用していません。
水草も入れていないので、部屋のルームライトの明るさでコリドラスを観賞するくらいです。「光が弱ければコケが生えない」という環境を実証している例になるかと思います。
次の水槽は金魚を飼育している水槽ですが、この水槽にはアヌビアス・ナナを入れていますが、コケがほとんど生えていません (若干生えていますが…) 。
アヌビアス・ナナに少しだけ茶ゴケが見えますが、龍王石も綺麗な白色のままであることが分かります。
この水槽で心掛けていることもライトの時間を極端に短くしていることです。この水槽にはLEDライトを設置していますが、点灯時間は2時間程度です。それ以外の時間は部屋のルームライトのみとなります。上のコリドラス水槽と同じように、コケが生えてこないレベルにライトを調整できていることになります。
以前、この水槽はコケ抑制剤を使用していた水槽なのですが、ライトの時間を極端に短くしたことで、コケ抑制剤を使わなくともコケが生えなくなりました。
コケが発生する主な原因は水質や水中の養分、そして光という3つがポイントになりますが、どれか一つの条件を断つだけで見違えるようにコケが無くなります。
私の経験上、ライトの点灯時間を制限するということが、アヌビアスに発生するコケを抑制するのに最も有効な手段です。皆さんも是非、コケの発生を抑制するために、コケの原因を一つ断つ工夫をしてみて下さい。
では、実際にアヌビアスの葉にコケを映えさせない管理方法のヒントを紹介していきたいと思います。
解決方法① 耐陰性水草だけのレイアウトにすること
水槽内に入れる水草を全て耐陰性の水草にするという方法です。
水草水槽を始めた時、多くの方がやってしまう事が、気に入った水草を好きなように導入してしまうということです。
その時、比較的明るいLEDライトが必要な水草を植栽したとすると、その水草に合わせてLEDライトを用意して点灯時間を決めてしまいます。
そのLEDライトの点灯時間や光量は、アヌビアスの葉にコケが発生するのを誘発するようなものなんです。
アヌビアスには強い光は必要無いので、LEDライト長く点灯させる必要はありません。ルームライト程度の光でもゆっくりと育ちます。LEDライトを点灯させたからと言ってアヌビアスの成長速度が2倍、3倍になるわけでもありません。
アヌビアスと同様に弱い光でも十分育つ耐陰性の水草で揃える事で、LEDライトの点灯時間も短くすることができ、効果的にコケの発生を防ぐことができます。
アヌビアスと相性の良い耐陰性水草としては、ミクロソリウムやブセファランドラ等が良い例ですね。
解決方法② 生体の数を制限すること
次に重要なのは生体の数を少なくするということです。
コケや藻が成長するためには、その肥料となる成分が必要です。
その肥料は水中に含まれる微量元素だったり、熱帯魚が排泄する糞など様々です。
後者については、熱帯魚を飼育すれば必ず餌やりを行うので、常に熱帯魚が排泄をしています。その量は生体数が増えれば増えていきますので、コケや藻にとっては成長しやすい環境になります。
逆に、生体の数が少なく、熱帯魚の排泄物から出る養分を水草達が全て吸収してくれるような環境であれば、コケや藻が発生する可能性は低くなります。
皆さん、ADAさんの美しい水草水槽をアクアリウム雑誌などで見たことがあるのではないでしょうか?
その美しい水草水槽を泳ぐ魚の数…過密になっている水槽って一つもないですよね。大きな90cm水槽や120cm水槽の中に15匹程度の小型カラシン科の魚しか泳いでいないような場合もあります。
200Lの水量に対して、小型の魚が15匹程度です。魚が排泄をしても、水中での排泄物の濃度はとても低いことが分かるかと思います。
そのような状況であれば、魚たちの排泄物がコケにとっての肥料になることは考えにくいのです。コケが肥料分として吸収する前に、水草達が肥料分として吸収してくれます。
解決方法③ コケ抑制剤を使う事 (水草の種類によっては注意)
どうしてもアヌビアスに生えるコケが無くならない!
LEDライトの点灯時間を制限しても、まだ減らない!
何をしてもコケが無くならないんだ!
というような場合には、最終手段としてコケ抑制剤を使用するという手法もあります。
私の過去の記事で紹介していますが「Bioコケクリア」という製品を使用したことがあります。この製品を飼育水に添加すると、強力にコケの発生を抑制してくれます。
しかしながら、水草によっては成長が顕著に悪くなるので、使用する前に確認はしてください。私の経験では、ロタラ系の水草とグロッソスティグマの成長が著しく悪くなりました。
ただし、このBioコケクリアを使うと、本当に見違えるようにコケが発生しなくなります。
アヌビアスに既に発生したコケを除去する方法
また、既にコケだらけになってしまったアヌビアスについて、そのコケを上手に除去する方法があります。
木酢酢を使用したコケ除去の方法になりますが、この方法については下のリンクで紹介をしています。
どうしても早くコケを除去したい場合などにはお勧めの方法になります。ぜひお試しください。
この記事の終わりに
この記事では、アヌビアスの葉に発生するコケを抑制する方法について、水槽の管理方法の観点で重要なポイントを紹介させていただきました。
コケが発生・増殖するためには、胞子、光、養分が必要になりますが、どれか一つでも原因を断つことができれば爆発的なコケの増殖は防ぐことができます。
この中で最も簡単なものが光を断つ、または光の量・点灯時間を制御するということだと思います。
完全に光を断つのではなく、実験を行いながら、水槽にコケの発生しにくいLEDライトの点灯時間を探っていくという方針になります。
とても有効な方法だと思いますので、是非一度お試しください。
もしそれでもコケを抑制できなければ、コケ抑制剤の導入なども並行して考えていくべきかと思います。