「ベタ」という熱帯魚は、アクアリウムが趣味の方以外も御存じではないでしょうか?
ベタは飼育する水槽に大掛かりな設備が不要で、その姿も非常に美しく優雅なため、熱帯魚の初心者でも安心して飼育できます。
そんなベタですが、特徴的な器官と生態を持っています。
「ラビリンス器官」という呼吸器官と「泡巣」という独特の繁殖用の巣です。
ラビリンス器官は、エラ呼吸に加えて空気呼吸できる魚が持つ特徴的な器官になります。ベタ以外の熱帯魚にもラビリンス器官を持つ魚がいますので、豆知識的として御紹介致します。
また、記事の後半では「なぜベタは泡巣を作るのか?」という点に焦点を当ててお話しします。科学的に完全に解明されていないベタの泡巣ですが、私の飼育経験から泡巣を作る理由を考察してみましたので御紹介させていただきます。
まずは「ベタ」の基礎知識から
ベタは東南アジアの出身です
ベタはスズキ目のキノボリウオ亜目に属する淡水の熱帯魚で、東南アジアが原産国となります。
「スズキ」は日本の近海にも生息するあの鱸です。シーバスという名前で、ルアーフィッシングの人気のターゲットにもなっている魚です。
ベタをよ~~く観察すると、口の周りや目元など、スズキにそっくりな部分がたくさんあります。特に口は大きく開き、まさにシーバスのような外観です。
ベタは、その大きなヒレや美しい模様で人気の高い熱帯魚ですが、熱帯魚の専門店だけでなく、ホームセンターに併設のペットショップでも販売されているため、誰でも入手することが可能な熱帯魚です。
また、品種改良により、主にヒレの形によって様々な種類も生み出されました。プラカット、ハーフムーン、クラウンテール、スーパーデルタ等が代表的な種類です。
ワイングラスで育てないでください
アクアリウムをされていない方でも、ベタがワイングラスや小さな容器の中で泳ぐ姿を見たことがあるかもしれません。
ラビリンス器官と呼ばれる特殊な呼吸器官を持っているため、エラ呼吸による酸素取得以外に、空気中から酸素を得ることができるという能力を持った魚です。
そのため、春や秋の気候が落ち着いたシーズンでや室内で気温が安定している場所であれば、毎日の水替えを行うことで、フィルターやブクブクの無い水槽の中でも生きることができます。
そのため「ワイングラスでも飼育できる」という言われ方をされるようになりました。
しかし、私はこの飼育方法には絶対に反対で、少なくとも通常の熱帯魚の飼育環境で飼育してあげるべきだと考えています。
ラビリンス器官というのは基本的に過酷な環境でも生きるために身に付いた能力になりますので、それを頻繁に使うということは飼育環境が整っておらず魚にとって厳しいと言うことになります。
ベタは美しさを競う品評会も開催される
ベタはその長いヒレや美しい模様が特徴的で、品種改良や交配も進んだため、その美しさを競う品評会も開催されております。チャンピオンに輝いたベタは、魚とは思えないような美しさを持っています。
私もベタの品評会で入賞した生体を見たことがありますが、ヒレの形や鱗の一枚一枚のどこをとっても美しく、まさに選ばれし精鋭のような存在だと一目でわかりました。ホームセンターで売られているベタとは格が違いましたね。
ベタは「闘魚」と呼ばれオス同士が激しく戦う
ベタは別名で「闘魚」と呼ばれており、オス同士が激しく戦うことで有名です。お互いが弱って戦えなくなるまで戦い続けるため、ベタのオスを同一水槽で複数匹飼育することは困難です。
60cmクラスの大きな水槽で2匹を飼育しても、わざわざ喧嘩を仕掛けに行くくらいの性格です。
ベタ同士だけでなく、姿や形の似ているプラティやグッピーなどに対しても敵対心をむき出しにして襲い掛かります。そのため、混泳可能な魚は事前に確認しておく必要があります。
基本的にベタはそこまで泳ぎが得意ではないので、ネオンテトラなどの泳ぎが上手い魚はベタから余裕で逃げることができます。コリドラスも混泳可能ですね。ベタはコリドラスを相手にしないようです (私の飼育環境下での話です) 。
ベタのラビリンス器官って何?
ラビリンス器官の機能と場所について
皆さんご存じの通り、魚は水中の溶存酸素を取り込むためにエラ呼吸をします。
しかし、エラ呼吸に加えて、空気中から直接酸素を取り込むために空気呼吸をする魚もいます。その空気呼吸を実現しているのがラビリンス器官 (上鰓器官) という呼吸器官です。
ラビリンス器官は、エラの少し上にあり、迷宮のような構造・形をしているためラビリンスと呼ばれています。
また、エラの上にあるので和名として「上鰓器官」とも呼ばれています。
ラビリンス器官を持つ魚は水面で空気を取り込み、ラビリンス器官によって体内に酸素を補給することができます。エラ呼吸と空気呼吸のハイブリッド型呼吸のようなものです。
なぜ、ラビリンス器官が発達したの?
なぜ、ラビリンス器官が発達したのでしょうか?
エラ呼吸があるのにも関わらず、わざわざ空気呼吸も必要とする所に理由があります。
ラビリンス器官を持つ魚は、下でも記載しますが、基本的に東南アジアやアフリカなどの水温が高い地域が原産の魚ばかりです。
水温が高いと、水中の溶存酸素が減ってしまうため、エラ呼吸では酸素を賄いきれず空気中からも酸素を取り込むことを選んだのだと考えられます。
生き物が生き延びるための進化の過程で身に着けた呼吸器官だと言えます。
一部のサイトで、魚を解剖したラビリンス器官の写真を載せていますが、私は写真のために魚を殺すなんてことができないので、別のサイトに写真はお任せするとします。
ベタ以外にもラビリンス器官を持つ魚がいます
ラビリンス器官を持つ魚はアナバス亜目 (キノボリウオ亜目) の仲間になります。
アナバス亜目と言われても、ピンとこないかと思いますが、以下のような魚たちになります。
- ベタ
- グラミーの仲間
- タイワンドジョウ (雷魚) の仲間
- キノボリウオ
私は魚釣りが趣味で、夏場の雷魚をターゲットに釣りをしていた時期もあります。
雷魚は夏場になると空気呼吸をするために水面に出てくることが多くなります。その浮いてきた雷魚を見つけて、ルアーを投げると釣果が格段に上がるんですね。ラビリンス器官を持つ魚の性質を理解した釣法です。
キノボリウオという名前が出ましたが、キノボリウオの仲間は実際に水中から木の上に這い上がることがあります。つまり、水中のエラ呼吸だけでなく、空中で酸素を取り込んでいるということなんですね。私はその姿を見たことがありませんが、一度は見てみたいと思っています。
ラビリンス器官を持つ魚にもエアレーションは必要
ラビリンス器官を持つからと言って、溶存酸素が薄いような過酷な環境下で飼育することは避けるべきです。それは私の失敗経験から皆さんにアドバイスできることです。
私が最初にベタ飼育を始めた時も「ベタにはエアレーションやフィルターは要らないです」と言われて、簡単な水槽で水替えだけして2匹のベタを飼育していました。
しかし、1匹目は冬の低水温が原因で、2匹目は体調を崩した後に白点病を発症し、命を落とす結果になってしまいました。
1匹目の原因はヒーターを用意してあげれば防げたものです。
2匹目は夏の時期に餌を食べなくなってしまい弱り、最後は治癒できないレベルの白点病を発症してしまいました。
どちらのベタも飼育環境を整備してあげれば元気な姿を長く見られたと思います。だからこそ、皆さんには同じ失敗をして欲しく無いと思います。
上で紹介した「ワイングラスの中のベタ」というのは、私からすると魚類虐待にあたるような飼育方法です。それと同じようなことをしていた自分が言えたことではないのですが…。
そもそも、ベタは熱帯魚ですので水温が24℃前後は必要になります。水温が下がる冬にヒーターの無いワイングラスで飼育されたら弱っていってしまいます。他の熱帯魚を飼育するのと同じように、エアレーション・ヒーターを使用して飼育環境を整えてあげないと命を落とす確率が上がってしまうのは必至です。
ワイングラスで飼育されたら、ベタも下の写真みたいに、怒ってしまいますよ!
ベタはなぜ泡巣を作る魚になったのか?
ベタの雄を飼育されている方なら、一度は「泡巣」を目にしたことがあるのではないでしょうか?
朝起きたらベタの水槽水面に泡の塊が浮いていて、「この泡は何?」と疑問に思ったことはあるかと思います?
ベタの泡巣は、その名の通り卵を保護するための巣なのですが、何のために泡巣を作るのか、皆さんは御存じですか?
ここからは、ベタが泡巣を作る理由を考えてみたいと思います。
そもそも、泡巣とは何なのか?
泡巣は、雄が繁殖目的で水面に作る気泡の集合体の巣です。
繁殖が近くなると、雄が自ら水面で空気を吸い込み、その空気で気泡を大量に作ります。その気泡の集合体の中で卵を孵化させるため「泡巣」と呼ばれています。
下の写真に泡巣の例を写真で載せておきます。ベタの上に泡がたくさん見えると思うのですが、これが泡巣です。
ベタの雄が自らの力で数時間をかけて作り上げる作品で、朝には無かったのに夜に帰宅すると出来上がっていることが多々あります。また、作っている最中に近くで耳を澄ますと、ベタが泡をつくる「ポン」という音が聞こえます。
ベタはいつ泡巣を作るの?
実は、ベタの雄が泡巣を作る頻度は、かなり不定期です。
全く作らない時もあれば、1週間に2度作ることもあります。
フィルター、ヒーターによって年間を通じて同じ水温と環境が作られる水槽の中ですので、自然環境の中とは環境変化が異なります。そのため、ベタの気分に依存するところが大きと推察されます。
例え近くに雌がいなくても、雄が泡巣を作ることがあります。もしかしたら、雌を誘い込むためのアピールポイントなのかもしれませんね!
私の飼育しているベタ (雄のハーフムーン) も、年間を通じて不定期に泡巣を作っています。
ベタが泡巣を作る理由の私なりに考察してみました
ベタが泡巣を作る目的は、実は生物学的には解明された事実はありません。
しかし、ベタを長く飼育して繁殖も経験すると、なぜ泡巣を作るのか?という点に何となく答えが見えてきます。また、それに加えて、原産地となる東南アジアの環境を考えることで泡巣の必要性が見えてくると考えています。
以下では、そんな私のベタ飼育経験から類推される「泡巣を作る理由」を私の考えと共に記しておきたいと思います。
外敵から卵を守るため
まず第一に外敵から身を守るためというのが大きな理由としてあるでしょう。
ベタの雌が産卵すると、雄が卵を口に含み、その卵を泡巣の中に入れていきます。
水中ですと、他の魚に見つかって食べられてしまう危険性が高いのですが、泡巣の中であれば見つからずに安心です。
産卵後は雄が巣の近くで見張りをするので、他の魚が近づくこともなく、卵を安心して孵化させられます。
また、産卵を終えると雄が卵のお世話をするので、稚魚が外敵に狙われる可能性はさらに低くなります。
ベタの卵に適した酸素調整のため
通常、魚の卵は水中にあるので溶存酸素から酸素が供給されますが、泡巣の中は水中とは異なり、空気中の酸素にも触れることとなります。
溶存酸素は空気中の酸素に対して、1/5から1/6程度の濃度と言われておりますので、空気に触れることで水中よりも酸素量を豊富に供給できると思われます。
また、ベタの原産国となる東南アジアは気温が高いため、水中の溶存酸素が少なるなる傾向になります。その溶存酸素が少ない水中よりも、確実に酸素を供給できる泡巣の中を選んだのかと考えることもできます。
生まれた稚魚の保護機能を持つ (水中への落下防止)
稚魚が生まれると、その稚魚たちはしばらくの間は泡巣にくっついて育ちます。
稚魚が泡巣から離れて水中に落ちていこうとすると、親の雄が助ける場面もあります。
水中には敵となる魚が多く存在しますので、泡巣に付着することで外敵から身を守る効果が出てくるのです。稚魚は泡巣が無いと水中へ沈んでしまうので、泡巣にくっつくことで水中で危険にさらされることが無いということです。
生まれた稚魚の最初の餌になっている?
ベタの泡巣に触れたことがある方はお気づきかもしれませんが、普通の気泡よりも強度があります。
これは、ベタの雄が体液を気泡に含ませているためだと考えられます。
また、生まれたばかりの稚魚は上で書いたように、しばらくは泡巣にくっついて生活します。
その時に泡巣に対して口をパクパクさせている振る舞いをみせます。
もしかしたら、酸素を供給しているだけかもしれませんが、泡巣そのもののに親が施した栄養成分があるということは考えられないでしょうか?
ベタとは異なりますが、同じく泡巣を作るモリアオガエルの研究で、泡巣を生まれた子供達が食べているという報告を目にしたことがあります。参照元が示せなくて申し訳ないのですが…。
直射日光を遮断して紫外線から稚魚を保護
ベタの生息する東南アジアは、赤道に近いため、直射日光が強いものとなります。
その強い直射日光が生まれたばかりの稚魚に当たると、身体に弊害が生まれる可能性があります。人間にとっても強い紫外線は肌を痛める原因になるので、生まれたばかりの稚魚にとっては、かなり厳しい光線になると思います。
泡巣を見たことがある方なら、分かると思いますが、幾重にも重なる泡のため、泡巣の上からは水中を確認することができません。
言い換えれば、光が入りにくいことを意味します。
直射日光から免疫力の無い稚魚を守る、父親が作った屋根のような存在であることも一つの理由だと思われます。
また、光が入らないということは、稚魚が水面から確認できないので、空から狙う鳥からも身を守ることができるのかと考えられます。
おわりに
この記事では、ベタのラビリンス器官と泡巣について御紹介させていただきました。
ラビリンス器官があるため、ベタは過酷な環境でも飼育が可能というイメージがあるのですが、他の熱帯魚と同じ「魚」です。水槽の設備を簡略化せず、他の熱帯魚と同じように、フィルターやエアレーションを設置して飼育をしてあげてください。
また、ベタが泡巣を作る理由については、私の飼育経験から考えるところを記載させていただきました。自然界でベタが身に付けた繁殖の方法ですが、ベタが他の魚とは異なる能力 (ラビリンス器官) を持つことにも関連した繁殖方法だと思われます。
何度も注意喚起をしてしまって申し訳ないのですが、ベタを飼育する時には、ベタと長く付き合うために、飼育環境を整えてあげて下さいね。