水槽の中に多くの水草を植栽し、石や流木と組み合わせることで、まるで自然界の水中を水槽内に再現する「水草レイアウト水槽」。
自身で作製した水草レイアウト水槽は、世界に一つだけの水槽となり、水草の成長や熱帯魚の成長と組み合わせると、同じ姿が見れるのはその一瞬だけになる…そんな美しい世界が広がります。
水槽内に植栽する水草には多くの種類があり、「どの水草を植栽すべきなのか?」、「どの水草を組み合わせるべきなのか?」、「熱帯魚との相性はどうなのか?」という疑問を考えながら、失敗と成功を繰り返して水草レイアウト水槽が完成していきます。
そんな水草レイアウト水槽に植栽する水草の中で、水槽の前面に植栽される水草が「前景草」と呼ばれ、背丈の低い水草が選ばれるのが一般的です。
有名な前景草としては、グロッソスティグマ、ショートヘアーグラス等がありますが、これらはランナーを伸ばしながら地を這うように成長していく水草となり、背丈が伸びにくい種類となります。
それに対し、茎を伸ばしながら水面へ向かって成長する有茎草は、背丈が高くなりやすい特徴があり、水槽の背面に植栽されます (後景草と呼ばれます) 。
しかし、有茎草は美しい姿を持つ水草が多く、前景草として植栽したいという意見を持つ方も多い事かと思います。
本記事で紹介する「ストロギネ・レペンス」は、「有茎草」でありながら成長速度が遅く、背丈を低く管理できる水草として知られています。
この記事では、そのストロギネ・レペンスについて、成長速度の測定結果と育成方法の詳細について紹介したいと思います。
水草水槽にストロギネ・レペンスの導入をお考えの方にとって、参考になるデータとなれば幸いです。
成長速度を測定したストロギネ・レペンスの植栽・育成の条件
最初になりますが、今回の実験で使用したストロギネ・レペンスの植栽条件と栽培条件について記載します。
植栽後の成長速度については、株の購入条件 (組織培養 or カップ売り) やLED照明の条件などで大きく変わります。
また、同じ栽培条件であったとしても株の状態 (状態の良い株であったか否か) でも成長速度は変化します。
そのため、あくまでも参考としてお考えいただけましたら幸いです。
組織培養のストロギネ・レペンスを使用
今回使用したストロギネ・レペンスですが、ADAの組織培養カップ「みずくさの森」シリーズを使用しています。
近くのアクアリムショップでは、鉢植えで販売されているストロギネ・レペンスもあったのですが、成長速度を測定するには若い小さな株の方が良いと判断し、組織培養のストロギネ・レペンスを使用することとしました。
組織培養のカップは寒天培地で水草を育てている商品になるので、観点部分を綺麗に除去してから植えていく必要があります。
また、複数の株が植えられており、それぞれの根が絡み合っている場合がほとんどです。そのまま植栽すると、根の成長にもあまり良くないので、下の写真の様に観点部分を綺麗に除去して、各株を確実に分離してから植栽するように心掛けます。
ストロギネ・レペンスの育成環境の詳細 (水槽関連の設備)
次に、ストロギネ・レペンスの育成条件の詳細について記載したいと思います。
植栽を行ったのは、下の写真の通り、60cm規格水槽の前面四隅の部分になります。ストロギネ・レペンスの植栽前後での写真を載せておきました。
外部フィルターは、エーハイム2213を使用し、水温は年間を通じて25℃から26℃で一定に管理しています。
また、LEDライトは「アクロ製 Triangle LED」と「GEX製造 CLEAR LED」の2灯を使用し、1日の点灯時間は7時間程度で管理しています。
二酸化炭素の添加は、ADA製の「アドバンスシステム・フォレスト」を使用し、5秒から6秒に1滴の二酸化炭素添加量となります。
飼育している熱帯魚は小型カラシン科の熱帯魚が約25匹、その他の水草はロタラやショートヘアーグラス、クリプトコリネが植栽されています。
使用しているアクアリウム用ソイルはリベラソイル、初期肥料としてテトラのイニシャルスティックを埋めています。液肥は不使用です。
ストロギネ・レペンスの成長速度の測定方法
ストロギネ・レペンスの成長速度の測定方法ですが、上で植栽したストロギネ・レペンスから3つの株を選び、その背の高さ (茎の長さ) を物差しで測定していくという方法を採用しました (下の図を参照ください) 。
ストロギネ・レペンスは、冒頭でも述べたように、背の高くなりにくい有茎草となります。そのため、株の背の高さがどのくらいの速度で成長するのかを測定することとしました。
水中でストロギネ・レペンスの背の高さを測定することになるため、どうしても誤差は生まれてしまいます。そのため、以下で紹介する結果には1mmから2mm程度の誤差は含まれてしまっているとお考え下さい。
写真で見るストロギネ・レペンスの成長
成長速度の測定結果をご覧いただく前に、ストロギネ・レペンスの成長過程を写真で紹介したいと思います。
まず最初に、植栽直後と2週間後の写真の比較となります。
植栽から2週間が経過すると、少し不安定であった株もしっかりと根を伸ばし、安定した状態になっているように見受けられます。また、葉の大きさが大きくなり、葉の量も増えて、確実に成長していることがわかります。
次の写真は植栽から2カ月後の様子になります。
植栽から2週間後の写真と比較しても、そこまで大きく変化していないことが分かるかと思います。(ストロギネ・レペンスの隣には地下茎で増えたクリプトコリネも写っていますが、クリプトコリネは旺盛に育っています。時間がそれだけ経過していることがわかるかと思います。)
確かに葉の量は増えてはいるのですが、顕著に成長が確認出来るようなものではありません。実際に毎日のように観察していると、成長に気付かないようなレベルです。
これがストロギネ・レペンスが前景草に向いていると言われる理由で、成長速度が非常に遅いんですね。
では、実際にどのくらい成長が遅いのか、次の項目ではデータとグラフで見て見たいと思います。
ストロギネ・レペンスの成長速度測定結果の紹介
下のグラフが、3株のストロギネ・レペンスの高さを約2カ月半の間、測定した結果となります。
植栽当初は、ソイルから2cm~3cmくらい株が出ている状態で植栽をしました。
その後になりますが、約2カ月半経過しても、高さは5cm未満となっております。
私の以前の記事で、様々な水草の成長速度を測定していますが、ストロギネ・レペンスの成長速度は遅い部類に入ります。ロタラやオランダプラントなどと比べると、成長速度がかなり遅いです。
成長速度を求めてみると、3つの株の平均で0.02 cm/日となりました。数値で見ても成長速度が遅いですね…。
前景草をお探しの方で、ストロギネ・レペンスの植栽を検討されている方は、このくらいの成長速度であれば安心して水槽の前面に植えられるのではないでしょうか?
ストロギネ・レペンスを育てる上での注意点はコケの発生
ストロギネ・レペンスは、上記の通り、成長速度がとても遅い水草です。
そのため、何も対策をしなければ、葉にコケが生え始めてしまいます。
今回育てたストロギネ・レペンスも、コケがかなり生えてしまっている状況です。
下の写真はストロギネ・レペンスを拡大した写真ですが、特に植栽初期に展開してきた下の方の葉には茶ゴケがた生えていることが見て取れると思います。
株の頂点から新たに発生した成長中の葉には茶ゴケは付いておらず、成長の止まった古い葉にだけ茶ゴケが発生しているという状態です。
この茶ゴケは、サイアミーズ・フライングフォックスやヤマトヌマエビ達では対応できないため、ライトの点灯時間を制御する等の管理方法の改善が必要になります。
今回はストロギネ・レペンスに発生するコケに気を遣わずに育てていたので、このような状態になってしまいました。
ストロギネ・レペンスを導入される方は、コケの発生には注意してください!
この記事の終わりに
この記事では、有茎草でありながら水槽内の前景草として扱える「ストロギネ・レペンス」について、成長の様子や成長速度を詳細に紹介しました。
アクアリウムショップの店員さんから「成長速度はかなり遅いですよ」と聞いていましたが、実際に測定をすると0.02cm/日という非常に遅い成長速度であることを確認出来ました。
植栽から2カ月半が経過しても茎の高さは5cmにも満たないため、前景草として植栽しても安心かと思います。(大きく育ちすぎるという心配はないと思います。)
ただし、成長が遅いということは、葉にコケが発生しやすいこととトレードオフの関係にあるので、照明の点灯時間の調整などが必要である点は御留意ください。
ストロギネ・レペンスを水槽へ導入しようとお考えの方にとって、有益な情報となりましたら幸いです。