アクアリストの皆様であれば、アクアショップに行かれた際に、水槽内で真っ赤に染まった「ロタラ」という水草を一度は見たことがあるのではないでしょうか?
「ロタラ・インディカ」「ロタラ・ベトナム」「ロタラ sp. Hra」が赤く染まるロタラの品種として広く知られています。
水草にもいろいろな種類がありますが、多くの水草の色は緑色や黄緑色をしています。
皆様は「なぜロタラや一部の水草は赤くなるのか?」という疑問を持ったことがありませんか?
ロタラが赤くなる理由は、まだ植物学の世界でも完全には解明されていないと言われています。しかし、葉が赤く染まるということは、紅葉が赤くなるのと同じような理由で赤くなるはずです。
この記事では、ロタラが赤くなる理由・工程について、順を追って考えていきたいと思います。
情報誌には「ロタラを赤くするには光量を上げる!」とか書いてありますが、その根本は何なのでしょうか?
実際にLEDライトの光量を変化させたときにロタラの葉の色がどのように変わるのかについても紹介したいと思います。
水草の葉が緑色に見える理由
植物を緑色に見せているものの正体は「クロロフィル」という光合成色素です。
太陽光には様々な波長の光が含まれていますが、クロロフィルはその太陽光の中で青色と赤色の光を多く吸収して光合成を行います。そのため、残った緑色の光の一部が反射され、緑色の光が主に私達の目に入るため葉が緑色に見えるのです。
ただし、注意していただきたい事は、クロロフィルが緑色の光を全て反射するわけではありません。緑色の光も一部吸収しているのですが、青や赤に比べると反射する量が多いので葉が緑色に見えます。
そのため、植物が健康的に育つには、青色と赤色の光が多めに必要になります。今、皆様が使われている水槽用のLEDライトには、青と赤のLEDが個別に組み込まれているのではないでしょうか?
Blue, Red, Whiteの3色が選べる水槽用LEDがあるのは、そのような理由もあります。
【豆知識】白色の光は何故白色なのか御存じですか?
光は様々な波長の光が混ざり合うと白色に見えるようになります。ですので、水槽用LEDライトはの白色パターンには、赤も青もすべての色が混ざっていることになります。
葉が赤くなる原理とアントシアニンの働き
自然界で植物の葉が赤く染まるのは、どのような時でしょうか?
誰もが思い浮かべるのは、紅葉が赤く染まる秋が深まる時期だと思います。
葉が赤く変色するという現象を考えると、紅葉もロタラの赤色も、同じような原理・理由で葉の色が変わると考えられるかと思います。
分かりやすく説明するために、ここからは、紅葉を例にとって葉が赤く変色する理由を説明します。
秋が深まり気温が下がると、植物の活動量も緩やかに下降していきます。
植物の活動量が下がると、光合成で生成したエネルギーを使いきれない状態になります。
すると光合成をしてエネルギーを生成する意味が無くなるため、光合成を担ってきたクロロフィルが葉の中で破壊されていきます。
この破壊されたクロロフィルがグルコースへ変化し、グルコースが前駆体アントシアニジンと結合することで最終的にアントシアニンが生成されます。
このアントシアニンが、葉が赤色になる原因です。赤色はアントシアニンの色なのです。アントシアニンを含む有名なフルーツが「アセロラ」ですが、真っ赤な色をしているのはアントシアニンの効果によるものです。
秋が深まり気温が下がるに連れて、植物がどんどん休眠状態に進んで行き、次々にクロロフィルが破壊されていきます。
クロロフィルが破壊されれば、それに伴って葉の中にアントシアニンもどんどん増えていき、葉が真っ赤に染まっていくのです。
赤くなるロタラを水槽で育てるのであれあば、葉を赤くする立役者が「アントシアニン」であることは覚えておいても損は無いかと思います。
ロタラが赤く染まるのにもアントシアニンが必要になる
上で説明した通り、葉が赤く染まる雨にはアントシアニンが必要であることが分かりました。
この記事ではロタラが赤く染まる事を主題にしておりますが、ロタラが赤く染まる理由もアントシアニンの働きで説明ができるかと思います。
ここからは、ロタラが赤くなることに視点を置いてお話しします。
アントシアニンは葉を保護する機能を持つ
葉を赤くする立役者が「アントシアニン」という分子であることは上述の通りです。
では、そもそも、なぜ「アントシアニン」なのか?という点については、お話をしていませんでした。
言い換えると、なぜ他の分子ではなく、わざわざアントシアニンが生成されているのか?ということです。
アントシアニンでなければいけない理由、その役割がアントシアニンにはあるのです。
もう一度、紅葉が赤くなる話に戻すと、秋になって直ぐに葉が無くなってしまうのは植物にとっても困るわけです。植物は秋も活動をしており、光合成が必要になりますので。
そのため、葉が急に無くなってしまうのを防ぐ、葉を保護する機構のような存在も欲しいわけです。
特に、日光に含まれる紫外線は葉の中の細胞を破壊していくので、その紫外線による急激な細胞の破壊を避けなければなりません。
実は、アントシアニンには紫外線の一部を吸収する能力を備えております。
紫外線を吸収するということは、葉の中の細胞破壊を防いでいると言い換えることができます。つまり、アントシアニンは上で触れたように、秋に葉が急激になくなるのを保護する役割を担っているのです。これがアントシアニンが生成される大きな理由になります。
また、アントシアニンには抗酸化作用があり、クロロフィルが分解されるのを抑制される効果も持っています。この機能も、葉が急激に落ちてしまうのを防ぐ効果になります。植物が生まれながらに持っている、自己防衛本能の一つと言えます。
ロタラの葉を赤くするためにはアントシアニンを生成しなければならない
アントシアニンの色が赤色の根幹となっていること、そしてアントシアニンは葉を保護するために必要な分子であることもわかりました。
それでは、ロタラの中にアントシアニンを効率良く生成するにはどのようにすればよいのでしょうか?
その答えとしては、紅葉と同じで、ロタラに葉を保護する機能を働かせるような環境を作ってあげることが重要になります。
以下では、私がロタラを赤く染めるために実施している管理ポイントを紹介します。
①強い紫外線を当てること
上で記載した通り、アントシアニンは、紫外線から葉を保護する役割を果たしていることを説明しました。
つまり、紫外線を人工的に供給し、葉に危機感を与えてあげれば、一部のクロロフィルが破壊され、アントシアニンが葉の中に生成されるということになるのです。
その役割を果たすのが水槽用のLEDライトになります。
一般に言われている「ロタラを赤くするには強いライトが必要」というのは、間違った理解ではないのですが、より正確には「ロタラに当てる紫外線の量を強くする」ということになります。
紫外線は、人間の目には見えません。そのため、紫外線が当たっているか否かは確認できませんが、実はライトの光の中には紫外線が含まれています。
水槽用LEDライトの取り扱い説明の欄に、下の図のようなグラフを見たことがありませんか?これはそのLEDライトが持つ光のスペクトルと強度になります。
紫外線は、最も波長の小さい側の光になります。
スペクトルを見ると、紫外線の量は少ないのですが、一応水槽用LEDライトの光にも入っています。あまりにも強すぎると、人体の皮膚への影響もあるので、あまり強い紫外線になっていません。
「光量を多くしするとロタラが赤くなりやすい」というのは、水槽用ライトに含まれる、この紫外線の量を多くしているために起こる現象です。
LEDライトの強度を強くすれば、自動的に紫外線の量も増えますので、ロタラの中でクロロフィルの分解とアントシアニンの生成が起こり、ロタラが赤くなる環境が整備されていくわけです。
② 水温の力も利用すること
さて、あまり着目されていないかもしれませんが、ロタラを赤くするために、水温の事を考えたことがありますか?
上の紅葉の例で、紅葉が赤くなるのは秋が深まる気温が下がる時期で、光合成の活動が弱まる時期であるとお話ししました。
つまり、ロタラの植物としての活動を少しだけ落としてあげることも、アントシアニンが生成されやすい環境の一つになります。
紅葉が赤く染まるのは外気温が下がる時期なので、水草にとっては水温が下がるという環境なります。
ただし、ロタラが枯れてしまうような水温まで温度を下げられません。
私が実施している方法ですが、ロタラを効率良く赤くする際には水温を22~23℃くらいにしています。
一般的には熱帯魚の水槽は25℃くらいで管理されている場合が多いと思いますが、赤くなるロタラを植栽している水槽は年間を通じて22~23℃で管理しています。
③ 肥料や二酸化炭素はどうする?
私の意見ですが、ロタラが赤くなるのには二酸化炭素の添加はそれほど必要が無いと思います。
肥料についても同じで、液肥をどんどん水槽に添加していく必要は無いと思います。
実際に、次に紹介するLEDライトの強度とロタラの色の関係を調べた水槽では、二酸化炭素を添加していません。
二酸化炭素は基本的に光合成をして養分を作るのに必要な気体ではありますが、大気中から水槽へ溶け込む二酸化炭素があれば、ロタラは問題無く赤くなります。
二酸化炭素を添加している水槽と添加していない水槽でロタラ・インディカを育てたことがありますが、見た目の色はほとんど変わりませんでした。
ただし、水草の量が多い場合などは、二酸化炭素の添加によって光合成の補助をしてあげることが必要になるかもしれません。
二酸化炭素が必要か否かは、皆様が水槽を管理していく中での判断になるかと思います。
LEDライトの強度でロタラの赤色が変化した実例
では、実際にLEDライトの強度で赤いロタラの葉の色が、どのように変化するかを紹介したいと思います。
LEDライトは「Aqullo製のTriangle LED」と「GEX製のCLEAR LED POWER III」の2つを用意します。
水槽は60cm水槽で、ロタラ・ベトナムをメインに植栽している水槽となります。水温は23℃で、二酸化炭素の添加はしていません。
この水槽は通常は上記の2つのLEDライトを使用しており、下の写真のように、ロタラ・ベトナムが真っ赤に染まっている状態となります。
一日当たりのLEDライト点灯時間は約10時間ですが、常にこの色が出ている水槽です。
そして、この水槽のLEDライトを2日間だけ「GEX製のCLEAR LED POWER III」だけで管理してみました。Aqullo製のLEDライトの方がLEDの強度は強くなりますので、光量が顕著に下がった状態で2日間管理することになります。
2日後のロタラ・ベトナムの様子が次の写真になります。
見て分かるように、色が鮮やかな赤色では無く、くすんだ様な赤色になっていることが一目でわかるかと思います。
LEDライトの強度だけで、これだけロタラ・ベトナムの色に変化が現れるんですね。
そして、このくすんだ色の状態のロタラ・ベトナムに再び強いLEDライトを当ててあげると、下の写真の様に再び鮮やかな赤色が戻ってきます。
ロタラの葉を拡大してみましたが、くすんだ赤色では無く、鮮やかな赤色に染まっていることがお分かりいただけるかと思います。
ロタラが赤くならなくて困っている皆様、LEDライトの強度を変えてみると、その悩みが改善する可能性が高いです。
ここで紹介したAqullo製の高強度のLEDライトは、下の記事でレビューを紹介しています。
この記事の最後に
この記事では、ロタラの葉が赤くなる時に、葉の中で起きている変化の過程を仔細に紹介させていただきました。
また、LEDライトの強度を変化させた際の、ロタラの葉の色の変化についても実例を掲載させていただきました。
「ロタラを赤くするためにはLEDライトを強くする」ということが言われていますが、それは確かに正しいことです。実際にやってみると、LEDライトの強度でロタラの葉の色に明確な差が生まれます。
ロタラの葉が赤く染まるのは、現象までを考えてみると、かなり奥の深い植物の変化になります。
ロタラを赤く染めるのは、それほど難しい事ではありません。強いLEDライトを用意すれば誰でも実現です。
皆さんも、赤く染まったロタラの水槽レイアウトにチャレンジしてみてはいかがでしょうか?