レイアウト水槽に植栽される有名な前景草 (水槽の前面に植えられる水草) に、「ヘアーグラス」や「ショートヘアーグラス」があります。
グラスという名前が付いている通り、見た目はまさに芝生の様な見た目のため、草原のようなレイアウト水槽を作り上げる際などに重宝する水草です。
(アクアリウム界ではヘアーグラスやショートヘアーグラスと呼ばれますが、日本では「マツバイ」という名前で呼ばれている水草でもあります。)
そして、ヘアーグラスは水槽の中での育成もそれほど難しくはないため、アクアリウムの初心者からベテランにも親しまれている水草と言えます。
しかし、ヘアーグラスやショートヘアーグラスの育成で困るであろうことが一つあります。
それは「コケが生えると対処が難しい」ということです。
水槽の中の水草は、コケが生えてしまうと見た目や美観が著しく低下するので、コケはなるべく生やさないように管理しなければなりません。また、コケが生えてしまったら、早めに対処する必要があります。
この記事では、コケの発生してしまったヘアーグラスやショートヘアーグラスについて、トリミングを活用して美しい姿を取り戻させる実例を紹介したいと思います。
(この記事内では、文章の簡便化のため、ヘアーグラスとショートヘアーグラスをまとめて「ヘアーグラス」と呼ばせていただきます。ヘアーグラスとショートヘアーグラスは別物ですが、両方とも本記事に記載の方法でコケの対処が可能です。)
コケの生えたヘアーグラスの実例
まず最初に、ショートヘアーグラスにコケが発生してしまった実例を紹介します。
筆者の管理している60cm水槽の前景草として植栽しているものになりますが、下の写真の通り、コケが繁殖してしまっていることがわかると思います。
赤色の矢印で示した部分には小さな黒髭苔が生え始めており、写真に写っている多くの葉に茶色の茶ゴケが発生していることもわかります。
水槽を遠くから見るとコケの発生は分かりにくいのですが、水槽に顔を近づけてみると、決して綺麗なショートヘアーグラスと言えるような状態ではありません。
コケが生えていない状況であれば、水槽の前面に芝生のような綺麗な水景が作り出せるのですが、このようにコケが生えてしまうと、コケの除去が難しくなります。
実はヘアーグラスにはコケが生えやすい
次に、ヘアーグラスやショートヘアーグラスはコケが生えやすい水草であることもお話しておきたいと思います。
個人的な所感もありますが、以下に挙げる3点が原因だと考えています。
葉の成長が遅くなるとコケが発生するようになる
まず最初に、ヘアーグラスは一定の長さまで葉が伸びると、葉の成長が遅くなります。
葉の成長が遅くなるということは、コケにとっては生えやすい環境となります。
例を挙げると、アヌビアスナナやブセファランドラにコケが生えやすいのと同様の状況だと言えます。
比較的強い水槽用ライトが必要のためコケも生えやすい
2つ目は、ヘアーグラスの育成には比較的強い強度を持った水槽用ライトが必要であるということです。
以前の記事になりますが、ショートヘアーグラスの育成には強いライトが望ましい事を紹介させていただきました。
この記事にあるように、ショートヘアーグラスは強度の弱いライトでは育成不良気味になってしまいます。
そのため、強度の強いライトが必須になるのですが、ライトが強いということはコケの生えやすい状況にもなります。
ヘアーグラスの育成とコケの発生には、トレードオフの関係があると言えるのかと思います。
葉が細く密度も高いためコケ取り生体によるコケ除去が間に合わない
3つ目は、葉が細い事と葉の密度が高いことです。
ヘアーグラスは葉が細いので、サイアミーズ・フライングフォックスやオトシンクルスは口を使ってコケを食べることが困難です。
流木や水槽のガラス面に発生したコケであれば、サイアミーズ・フライングフォックスやオトシンクルスが食べてくれますが、ヘアーグラスのような細い葉は彼らの口の形には適合していません。
また、葉の密度が高いということは、コケ取り生体 (ヤマトヌマエビやミナミヌマエビ) がヘアーグラスの内側まで入り込んでいくことが出来ません。そのため、葉の密度が高い箇所は、エビ達がコケを綺麗に食べることが出来ないのです。
つまり、単純にコケ取り生体を導入しただけでは、ヘアーグラスのコケ対策にはならないのです。
ヘアーグラスはコケが生えると除去するのが難しい!
そして、ヘアーグラスに発生したコケについて、もう一つ厄介なことがあります。
それは、前景草で背の低い水草なので、水槽の水を全て抜いてコケを除去するということもできないということです。
以前の記事で、木酢液を使ったコケの除去を紹介しましたが、ショートヘアーグラスに木酢酢を吹きかけるためには、ほぼ全ての飼育水を抜かなければなりません。
熱帯魚を飼育していることや、フィルター内のバクテリアへの影響を考えると、飼育水を全て抜いてしまうことは避けたいですよね…。
また、葉の数が膨大になるので、1本1本の葉からコケを除去するのは到底不可能なことです。
つまり、ヘアーグラスにコケが生えてしまうと、除去することは困難になるということなのです…。
ヘアーグラスにコケが生えたらトリミングで新しい葉を発生させよう -実例-
コケの生えてしまったヘアーグラスですが、綺麗な状態にするには、トリミングでコケの生えた葉を除去する方法が最も簡単で有効です。
以下では、その手順と実際の例を紹介していきます。
コケの生えたヘアーグラスをトリミングでカット
まず最初に、コケの生えてしまったヘアーグラスをハサミで切り落としていきます。
下の写真が実際の例ですが、ソイルの表面ギリギリまでヘアーグラスの葉を切り落としていきます。
この時、ソイルの仲間でハサミを入れてしまうと、地下のランナーや根を傷付けてしまう可能性があります。
ランナーや根を傷付けても一部のショートヘアーグラスが枯れ落ちる程度で済みますが、見た目が悪くなってしまうので、なるべくソイルの表面ギリギリでトリミングは止めておいた方が無難です。
トリミングをすると光合成が盛んになる?
トリミングをした後ですが、ヘアーグラスは次の葉を発生させるために、光合成を盛んに行います。
そして、切り落とされた部分に、光合成で生成された酸素が気泡となって現れます (下の写真参照) 。
光合成で発生した酸素の気泡が、トリミングした部分から最も水中へ出やすくなるため、このような現象になるのだと思います。
この写真は、トリミングから2日後の様子ですが、トリミングした部分から盛んに気泡が発生している状態でした。
1ヶ月後のヘアーグラスの様子
では、トリミングから1ヶ月が経過したヘアーグラスの様子が次の写真となります。
右の写真がトリミングから1ヶ月が経過した後の様子ですが、緑色の新しい葉がぐんぐん育っていることがわかるかと思います。
また、次の写真はヘアーグラスを拡大した写真になります。
一部に茶色い葉が見られますが、これはもともと茶ゴケが生えていた部分が伸びてきた葉になります。
この状態で、もう一度トリミングを行い、葉の上部の茶ゴケを除去すれば、苔がさらに少ない綺麗な状態になると思われます。
また、黒髭苔の発生もない状態です。
この状態になったら、茶ゴケや黒髭苔の発生しない水槽環境を整えていくように努力していきます。
ただし、その最適な環境は水槽ごとに異なるため、皆さんの水槽で実験を重ねながら探索していく必要があります。
水替えの頻度、水槽用ライトの点灯時間、餌の量や生体数…あまりにも多いパラメータの数ですが、その最適解を見つけていくのもアクアリウム管理の試行錯誤の一つですね。
この記事の終わりに
この記事では、ヘアーグラスとショートヘアーグラスにコケが発生しやすい原因と、コケが発生した際の対処方法を紹介しました。
ヘアーグラスは非常に美しい前景草ではありますが、密度が高い事や葉の成長が遅くなることが理由でコケが生えやすいと言えます。オトシンクルスやヤマトヌマエビをもってしても、ヘアーグラスのコケを除去するのは難しいため、コケ取り生体の導入ではヘアーグラスのコケを処理できません。
ヘアグラスにコケを生やさない環境作りが最も重要ですが、もしもコケが生えてしまったら、上手にトリミングをして、ヘアーグラスをリセットしてあげて下さい。
ヘアーグラスはとても生育が旺盛な水草なので、1ヵ月から2カ月で美しい葉に生え変わります。
水槽のヘアーグラスが茶ゴケや黒髭苔に覆われてしまっている方、一度トリミングを試してみてはいかがでしょうか?
では!