淡水アクアリウムで水草を育てる際、水槽の管理項目は水質・水温に加えて、LEDライトの明るさや点灯時間、そして二酸化炭素の添加量など多岐にわたります。
どの項目も水草の育成に影響を与える大事な項目ですが、全てを最適化して管理することは本当に難しい作業です。アクアリストの多くの皆様がレイアウトを作る時、最初に目標とするイメージがあるかと思いますが、なかなかうまくいかないことがあるのも、これだけ多くの管理項目があるためなのでは無いかと思います。
しかし、いくつもある管理項目の中で、ある一つだけの項目に着目すれば、その項目が水草の成長に与える影響を調べることも可能です。
この記事では、水草水槽でも人気の耐陰性水草の「アヌビアス・ナナ」と「ボルビティス」について、水温が成長速度と葉の植え方に与える影響を調べた結果を紹介させていただきます。
約3カ月の間、理科の実験の様に根気強く調べた結果なので、皆様の水槽レイアウト作成の際の参考にしていただければ幸いです。
水草の成長速度の調べ方と管理水槽について
以前の私の記事で、ボルビティスの成長速度について紹介をした記事があります。その実験検証を行った時に、実は同時に異なる水槽で水温を変化させてアヌビアス・ナナとボルビティスを育てていました。今回は、その比較実験を紹介していこうと思います。
過去の記事は、下にリンクを載せておきますので、もしお時間あれば、そちらも御確認下さい。ただし、下のリンクのアヌビアス・ナナの成長速度の記事は、少し古い実験記事となり今回の実験とは繋がっていない検証となっている点はご注意ください (参考のために載せておきます)。
成長速度の測定方法について
成長速度については、過去の記事と同じですが、水槽の水替えのタイミングで葉や茎の長さを物差しで測定するという方法です。
ボルビティスは葉がまっすぐでは無いので、正確に葉の長さを測定することは困難になるので、ある程度の誤差はあると思ってください。
また、アヌビアス・ナナの成長に関しては、葉の長さではなく、下の写真に示すように、茎の部分の長さを測定しております。また、新しく増えた葉の数については、測定開始時点から増えた枚数をカウントしています。
測定期間は2020年5月から8月までの約三ヵ月間の測定になります。
水草を管理していた水槽と水温について
水草を管理していた水槽ですが、まずクーラーを使用して水温25度にキープしていたのが45cm水槽です。そこにアヌビアス・ナナ1株とボルビティス・ヒュディロッティ4株をレイアウト用の水草として入れておりました。
そして、真夏の間も水温を調節せずに管理していたの25cm水槽があり、そこにもアヌビアス・ナナ1株とボルビティス2株を入れておりました。測定した期間が夏の間なので、水温は夜間でも25℃より高くなっている環境になります。私が在宅の時には、部屋の空調は付いていましたが、空調がオフの時には最高水温として30.5℃くらいに上がっていました。ボルビティスは高水温に弱いという噂を聞いたこともありますが、今回の実験の中では枯れたり成長の状態が悪くなるようなことはありませんでした。
水温を25℃で管理していた45cm水槽にはネオンテトラ等の小型の熱帯魚をメインに飼育しており、25cm水槽の方は金魚を2匹飼育しています。
魚の数や種類に依って、魚の糞の量や水の汚れ方が異なってきますが、今回の検証では水温以外の変化や違いは無視して検証しています。本来はそのあたりも考慮すべきですが、ちょっと複雑になり過ぎるので、今回は水温にだけ着目しています。
また、LEDライトの点灯時間は、両水槽とも概ね7時間程度です。LEDを使用しなかった日もありますが、概ね1日に7時間程度は点灯していました。LEDライトの種類は両水槽ともにGEX製のCLEAR LEDシリーズとなります。LEDについては一応メーカーとシリーズを揃えていました。
今回の検証はあくまでも参考事例
今回の記事を紹介させていただく上で、皆様に御理解をいただきたいことがあります。
水草の成長速度は、それぞれの株の樹勢や初期状態に依存するところがあるので、水温だけが支配的に成長の状態を決める訳ではありません。
そのため、今回の記事の結果は、あくまでも参考事例ということで受け止めていただけましたら幸いです。
水温がアヌビアス・ナナの成長に与える影響
まず最初に、水温の違いがアヌビアス・ナナの成長に与える影響についてまとめていきたいと思います。
アヌビアス・ナナの茎の伸びる速度と水温の関係
下のグラフは、アヌビアス・ナナの茎の長さの伸びと経過日数の関係を示したグラフになります。
青色の折れ線グラフが温調が無く夏の間に高水温になっていた水槽のアヌビアス・ナナ、黒色の折れ線グラフが水温25℃で管理していたアヌビアス・ナナの結果です。
成長に大きな差は無いように思えますが、若干ですが水温調整が無い高水温の方が成長が速いような結果になりました。
やはり水温が高い方が植物の成長も活性化しているということなのかもしれませんね。さらに測定期間を伸ばせば、より明確な差が出たかもしれません。
アヌビアス・ナナの葉の増え方と水温の関係
次に、アヌビアス・ナナの葉の増え方について結果を紹介します。
下のグラフは、横軸が経過日数、縦軸が増えた葉の枚数になります。
こちらのグラフでも、水温調節の無い高水温の方が葉の数が増えるスピードが少し早いという結果が見て取れます。3か月後に発生した葉の数は互いに6枚ですが、6枚の増加に至るまでは水温が高い方が速度で勝っていました。
さらに測定期間を伸ばせば、もしかしたら明確な差が出てきた可能性もありますね。
水温がボルビティスの成長に与える影響
続いては、水温がボルビティスの成長に与える影響について紹介します。
ボルビティスの種類は上にも記載しましたが、最も有名なボルビティスである「ボルビティス・ヒュディロッティ」となります。
ボルビティスの葉の成長と水温の関係
まず最初に、経過日数ごとの葉の成長についての結果を下のグラフで示します。
黒色のグラフが水温を25℃で管理した水槽のボルビティス、青色のグラフが夏の間に水温調節をせず高水温になっていた水槽のボルビティスの結果です。
水温調節無しの方は、ボルビティスの株が2株でしたが、測定を開始した時に新しい葉がそれぞれの株に芽吹いていたので、その2つの葉について成長速度を測定していった結果です。そのため、グラフが2本になっています。
この結果の解釈は微妙なところではありますが、若干水温調節無し (=高水温) の方が成長速度が速いように思えます。数が少ないので正確な比較はできませんが、水温調節無しの条件の方に最も成長している葉があることもわかります。
ただ、実験結果から考えると、ボルビティスの成長を比較するのには、2つの水槽の水温差が少し小さ過ぎたのかもしれませんね。例えば、水温20℃の水槽と水温28℃くらいの差があれば、もう少し差が大きくなったのかもしれません。
また、ボルビティスは高水温では成長に悪影響があるという話を聞いたことがあります。今回の実験では、高水温になっていた水槽のボルビティスについては特に変化はありませんでした。
ボルビティスの葉の増え方と水温の関係
次にボルビティスの葉の増え方ですが、これは水温による違いが少しあるように思います。
下の表に水温調整無しの場合と水温25℃の場合に、各株で増えた葉の数を記録しています。水温調節無しの水槽の2株は葉が4枚増えたのに対して、水温25℃の方は1株だけは4枚の葉が増えましたが、残りの3株は3枚しか葉が増えていません。
新しい葉の芽が出やすくなるという観点ですが、これは高水温の方が活発になるのかもしれませんね!
この記事の終わりに
この記事では、水草の育成に影響を与える「水温」について、水温を25℃に管理した場合と、夏場の水温管理の無い場合 (=高水温) でアヌビアス・ナナとボルビティスの成長を実測した結果を紹介させていただきました。
水温が高い方が植物の育成が活発になると言われますが、今回の成長速度の実測でも、若干ではありますが高水温の方が成長速度や新しい葉の発生が活発になっているような結果となりました。
ただし、より明確な成長速度の違いを見るためには、もう少し温度差を設けた実験が必要なのかとも感じます。
今回は夏の実験だったのですが、冬の寒い時期に水温が下がった状態とヒーターで温めた状態で実験することも一つの手ですね。また、モチベーションのある時に実施してみたいと思います。