水槽内の水流が速いと浮遊物がフィルターで除去されにくい理由

美しくレイアウトされたアクアリウム水槽は、水草と熱帯魚の共演によって誰もが「美しい」と思う芸術的な作品だと思います。

アクアリストの皆様も、その美しいレイアウト水槽を目指して水槽の立ち上げやレイアウトの変更を進めていらっしゃるかと思います。

しかし、レイアウトは美しいけど、水槽の飼育水の中に多くの浮遊物が舞い上がっている状況だったら…

水槽の美しさが半減するどころか「ちょっと見た目が悪いないぁ…」と思われてしまうかもしれません。

この記事では、水槽の水流が浮遊物を生む原因であることを説明します。水流が速いとゴミが巻き上げられるだけでは無いんですよ。実は、フィルターによる浮遊物の捕獲能力も落ちてしまいます。


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水槽底に溜まったゴミが巻き上げられる

まずは、水流が速い場合に水槽内に浮遊物が生じる原因として、水流によってゴミが巻き上げられるという点を説明しておこうと思います。

水流自体がゴミを巻き上げる

水槽内に発生する浮遊物の原因は、多くの場合は魚の排泄物が原因です。

そのため、多くの魚を飼育していれば自然と水槽内の浮遊物が多くなります。

魚の糞は重量があるので、基本的には水槽の底に落ちていき、最も水流が弱まる部分に溜まっていきます。または、一部はバクテリアによって、目に見えに無いような大きさに分解されていきます。

しかし、水槽内の水流が速すぎる場合、水槽の底に沈殿した魚の糞を常に舞い上げてしまう効果があるため、魚の糞が長時間水槽の底に落ちることなく、水槽の中をグルグルと回ってしまう状況になります。

これは誰もが想像しやすい原因だと思います。

水槽底に生息する魚によって巻き上げられる

強すぎる水流に加えて、水槽の底に生息する熱帯魚を飼育している場合も、浮遊物が水槽内を漂いやすいです。

例えば、コリドラスやプレコなどの水槽の底を生活域にしている魚は、水槽の底を泳ぐため、底に溜まった糞やゴミを巻き上げてしまいます。

また、コリドラスは口で底の砂や砂利を掘り返して餌を探す習性があるので、せっかく水槽の底に溜まって動かなくなったゴミを、再び水中へ巻き上げてしまうのです。

私は自分のブログに「コリドラス」の名前を付けるくらいコリドラスが好きなのですが、この浮遊物を水槽内に巻き上げてしまう点で、結構迷惑しています…。

水流が速いと浮遊物がフィルターにかからない

ここからは、水流が速すぎると浮遊物がフィルターに吸い込まれにくくなる理由を、少しだけ物理的な知識を交えてお話したいと思います。

実は水流が速すぎると、浮遊物がフィルターに捕獲されにくいという現象があります。

何となくイメージは付くかもしれませんが、詳しく説明していきたいと思います。

水流が遅い場合

まず最初に、水流が遅い場合の例を考えてみます。

例えば下の図に示すように、フィルターから戻ってくる水の水流が弱いと、浮遊物が水槽内を移動する速度もゆっくりになります。

そのため、浮遊物はフィルターの取水口に近づいていくと、比較的容易にフィルターの取水口に引き込まれ、濾過させることになります。

水流が速い場合

次に水流が速い場合です。

この場合、浮遊物の移動速度も水流に比例して早くなりますので、フィルターの取水口近くに浮遊物が到達しても、取水口に引き込まれることなく、水槽内を浮遊し続けることになります。

そのため、いつまで経っても浮遊物がフィルターに取り込まれることなく水槽内に存在するため、浮遊物が無くならないように見えてしまうのです。

皆様の水槽でも、このような現象を見ることがあるのではないでしょうか?

「浮遊物が無くならないなぁ…」と思いながら水槽を見ているとき、浮遊物の流れを目で追っていくと、フィルターの取水口の近くまで行ってもフィルターに吸い込まれ無いことがあるのではないでしょうか?

この理由を物理学的な観点で説明したいと思います。

「捕獲断面積」という物理的な考え方

フィルターの取水口に浮遊物が取り込まれるか否かは、フィルターの取水口の生み出す吸引力の中に浮遊物が取り込まれるか否かということになります。

ここで、浮遊物がフィルターの取水口に近づいたとき、下の図に示す赤色の領域に入ればフィルターに捕獲されると仮定します。この赤色の領域がフィルターの吸引力が効果的に働く領域だと思ってください。

水流が遅い場合、浮遊物の動く速度も遅くなるため、フィルターの取水口の周辺の水流 (吸引力) が浮遊物の動く速度を打ち消して、フィルターが確実に浮遊物をキャッチすることができます。

水流が遅い場合には、浮遊物の動く速度よりもフィルターの吸引力の方が強いため、浮遊物から見ると取水口の吸引力が働く領域が大きく見えるのです。

しかし、水流が速い場合には、浮遊物の速度が速いため、フィルターの取水口の近くをあっという間に通り過ぎてしまいます。言い換えれば、フィルターの取水口の種類能力よりも早い速度で浮遊物が通過してしまうという状態です。

そのため、水流が速い場合には、フィルターの処理能力が一定だとしても、浮遊物が感じる吸引力は弱くなり、フィルターがキャッチできる赤い領域が下の図に示すように一気に小さくなります。これはフィルターに捕獲される確率が大幅に減ることを意味しています。

このように、浮遊物の進む速度が遅い場合にはフィルターに捕獲される赤い領域が大きくなり、浮遊物の速度が速くなれば赤い領域は小さくなります。

浮遊物の速度によって変化する赤色の領域は「捕獲断面積」と呼ばれ、物理学上の様々な現象を説明するのに用いられる一つの物理量になっています。

したがって、フィルターによる浮遊物の除去効率を上げるには、水流は過度に早いものは避けた方が良いということになります。

ただし、水流が速い場所があったとしても、フィルターの取水口が水流の弱い部分にあれば、フィルタリングの効率に大きな違いは出ないかもしれません。


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この記事のおわりに

この記事では、水槽内に漂う浮遊物を生み出す原因の一つである「水流の強さ」について詳細に説明をさせていただきました。

水流が強いと、小型の泳ぎが得意な魚は喜んでくれたりするのですが、水槽内から浮遊物を減らすという観点では弊害があります。

水流が強いと水槽の底に溜まったゴミを巻き上げてしまう原因になりますし、フィルターの取水口の近くでの浮遊物の捕獲確率を下げてしまう原因にもなります。

水流が無いと水槽内の水質が均一にならないため、水流は必要なものですが、あまりにも強いものをかけすぎないようにすることで浮遊物の軽減につながる可能性もあります。

浮遊物にお困りの方、水槽の「水流」について一度考えてみてはいかがでしょうか?