魚が浮き上がる転覆病は急な水温変化も原因 -実例を紹介-

11月に入ると晩秋へ向かって気温が徐々に下がり、私の住む関西圏でも最高気温が20℃に到達しないような日が続きます。

朝晩の冷え込みも厳しくなり、木枯らし1号のニュースも聞かれるシーズンとなりますね。

アクアリウムで熱帯魚を飼育されている方や、熱帯地方の水草を育てていらっしゃる方であれば、10月の中旬くらいからヒーターの使用を開始して、水温を20℃以上に保つ季節になります。

しかし、ヒーターの使用を忘れてしまい、気づけば朝晩の水温が18℃くらいに…ということを経験したことがある方もいらっしゃるかと思います。

そして、慌てて水槽にヒーターを付けて一気に水温を24℃に…

急激な水温変化は魚の体調に悪影響を及ぼしますが、実は浮き袋の不具合に起因する転覆病に直結する危ない行為でもあるのを御存じですか?

今回は、私の失敗事例を挙げて、急な水温の変化が転覆病に関わることを紹介したいと思います。


Advertisement

そもそも転覆病とは?

転覆病は、その名の通りですが、身体を傾かせて泳いだり、お腹を上に向けて泳いでしまうという、正常な泳ぎに支障をきたす魚の病気です。

魚が泳ぎを制御したくても制御できなくなる症状がでるのですが、なぜ起こるのでしょうか?

基本的には魚のお腹の中にある浮き袋が原因です。

浮き袋は、魚のお腹の中にあり空気・ガスが入っている器官となります。この器官があるので、さかなは水中に浮かび鰭を使って泳ぐことができます。魚が水中で沈んだり浮上したりせず動きを止めることができるのも、浮き袋が絶妙なバランスで浮力と重力を制御しているからなのです。

しかし、病気や体の不具合で浮き袋の状態が悪化し、浮き袋が肥大したり、浮き袋の中の空気・ガスの量が多くなってしまうとどうでしょうか?

お腹の浮力が強くなるため、魚がお腹を上に下り、横に傾いて泳ぐようになってしまいます。

逆に浮袋の中の空気が減って浮力が減ってしまった場合、魚が泳ぎを止めれば水底へ沈んでいってしまうでしょう。

転覆病は即座に命に関わる病気では無いですが、お腹を上に向けてしまうと、餌を食べることができませんし、衰弱していってしまうことは間違いありません。

また、上手く泳げない転覆病の魚が水槽にいることは、鑑賞している側としては見ていられない可哀そうな状態だと思います。

私が飼育している金魚の転覆病の発症

実は、2020年の11月に私の飼育している金魚に1匹が転覆病に罹りました。

軽度の転覆病の状態で気付いたので、今では完治して通常の健康状態に戻っております。

本記事では、その転覆病の発症について詳しく記載しておきたいと思います。

冒頭で、秋には水槽にヒーターをなるべく早めに稼働するということを記載させていただきましたが、実は2020年の秋は私はヒーターの設置が遅れました。

金魚は低水温にも強い魚なので、水槽にヒーターを設置するのが単純に面倒くさくて遅れてしまったというのが実際のところです。

しかし、水槽の中には南米が原産の水草「エキノドルス」も入っていることもあり、水温が20℃以下になったことを受けてヒーターを慌てて設置しました。

すると、その翌日、飼育していた「丹頂」という品種の金魚が水面で横になって泳いでいました。また、自力で潜水しようとしても、直ぐに勢いよく浮かび上がって、下の写真の様にひっくり返ってしまうような状態でした。まさに転覆病の症状そのものです。

また、泳ぎ疲れて休んでいる時は、下の写真の様に水面に浮き上がってしまって、横たわってしまっているような状況です。水草にもたれかかって休んでいる状態ですが、このように横たわってしまうような状態も転覆病の症状となります。決してお星様になってしまっているわけでは無いので御安心を。

以上が金魚の転覆病の発症の経緯になります。では、転覆病発症の原因は何なのでしょうか?下で原因を追究したいと思います。


Advertisement

今回の転覆病の原因追究

転覆病には、様々な原因があると言われていますが、原因を特定することは難しいです。

例えば、細菌が体内で異常に繁殖したり、消化不良による体調不良等、目では確認できない原因も多々あります。

そのため、確固たる原因を理解して対処するのは相当難しい病気になります。

しかし、今回の私の飼育する金魚の場合、原因として考えられることが一つありました。

それが「ヒーターの使用による水温の変化」です。

上でも説明しましたが、ヒーターを設置する前は水温が20℃を下回り、日中には19℃くらいでした。

そのため、慌ててヒーターを設置して水温設定を25℃にしました。

アクアリウムに詳しい人であれば、この時点でミスをしていることに気付きますよね…。たった一日で水温20℃前後のものを25℃まで上げているんです。

水温を変化させる時には、1日に1℃くらいを目標に変化させてあげることが、アクアリウムの世界では常識的な方法になります。私の場合には、完全にそれが頭から抜けていました…。

急激な水温変化は浮き袋を肥大させる

魚は変温動物のため、水温によって体の中を流れる血液循環や内臓の働きが影響を受けます。温かい春であれば消化活動も活発になり、成長も早くなりますが、寒い冬には臓器の働きも弱まるため、消化も成長も鈍くなります。

自然の環境の中では、急激な水温の変化は起こりにくく、夏から冬に向かってはゆっくりと水温が下がっていくため、魚の体も水温の変化に追随して冬の準備を始めます。

今回のヒーター導入の様に、一日にして水温が一気に5℃も上がるようなことは稀です。つまり、金魚の転覆病の場合、水温を一気に上げてしまったことが原因だと思われます。

浮き袋の中には空気・ガスが入っていると記載しましたが、気体は温度が上がると膨張します。高校の物理で習う「ボイル・シャルルの法則」に従って膨張します。

すると、浮き袋が少し肥大するため、より空気が中に取り込まれるようになり、浮き袋の中の空気・ガスの量が多くなります。

ここまでくれば、今回の転覆病の原因は、御理解いただけたかと思います。

急激な水温の変化、特に水温が一気に上昇する変化になるので、浮き袋が大きく肥大し、転覆病を起こしてしまったのだと考えられます。

今回転覆病を発症した金魚は、身体の動きには全く弱っている雰囲気が無く、体内の異変で起こった転覆病と言うよりも、転覆病が急に起こったという印象を受けました。

では、この水温変化が起因となった転覆病を解決するには?どうすればよいでしょうか?

以下でその内容を記したいと思います。


Advertisement

水温を戻して転覆病を解消する

今回の様に、温度の急変で起こった転覆病の場合、水温を調整することで転覆病を解消することができるだろうと考えました。

水温が20℃程度だったものを25℃に急激に上げてしまったのが原因なので、まずは水温を20℃までゆっくりと落としてあげました。1日に2℃くらいのペースで2日かけて20℃まで落とします。

間違ってもここで一気に20℃に下げてはいけません。混泳させている他の正常な金魚たちにも影響が出てしまいますし、短期間での5℃以上の急な水温変化は好ましくありません。

そして、徐々に水温を落として水槽内の水温が20℃くらいに下がると、転覆病を発症していた金魚が通常の泳ぎを取り戻していることが確認出来ました。

予想通りですね。水温の調整で比較的速やかに問題が解決しました。

水温を急激に上げてしまったことが、浮き袋の働きの不調 (今回は膨張) に繋がり、転覆病を発症していたということになります。

この記事の終わりに

この記事では、水温の急激な変化が魚の体に及ぼす悪影響の一つとして「転覆病」の症例を紹介させていただきました。

冬に近くなると急に水温が下がるので、慌ててヒーターを入れる方も多いかと思います。

しかし、ヒーターを使う時には、水温の変化は1日に1℃くらいに抑えながら水温を上げていくことが必要です。魚は水温の影響を直接受ける変温動物になります。恒温動物の私達人間とは異なり、温度の変化にはとても敏感な生き物です。

今回の事件を受けて、あらためて、水温変化は1日1℃までということの大切さを理解することができました。

金魚に限らず熱帯魚の飼育でも同様のことが起こり得ます。

皆様も、秋のヒーター導入時には水温の変化に注意してくださいね!