水槽という限られた環境の中で、魚の飼育を楽しむことができる「アクアリウム」。
誰もが人生で一度は魚の飼育を経験したことがあるのではないでしょうか?
近年では小さな水槽設備も充実しており、水槽の置き場所にも困らないため、誰もが手軽に魚の飼育を始めることができる時代になりました。
また、水槽に美しい水草を導入した「水草水槽」というジャンルも人気であり、アクアリウムは魚の飼育だけでは無くインテリアの一面も持つ趣味となって来ています。
その反面、魚の身になってアクアリウムを考えてみると、水槽と言う狭い環境の中で飼育されるため、自然の中で伸び伸びと生活する場合に比べて、ストレスを感じることが多くなるのが現実です。
水槽の前を人が通ったり、家の中で大きな物音がしたり、夜にも関わらずLEDライトで照らされる状況もあるかと思います…
考えてみると、飼育者である私たちは様々な形で魚にストレスを与えていると言えます。
熱帯魚をよく観察していると、ストレスが加わったことによって魚の体に変化が現れることがあります。
その変化として容易に確認できるのが「体色や模様の変化」です。
この記事では、水槽の管理の中で生じる様々なストレスが、魚の体色・模様の変化となって現れた実例を紹介したいと思います。
魚はストレスが加わると体色に変化が現れる
熱帯魚に関わらず、魚たちは一般的に体の色が変化します。
外敵が現れた瞬間、安心して休んでいる時間、仲間とコミュニケーションを取っている時間…それぞれの場面に応じて魚たちの体の色は少しずつ変化しています。
魚の色が変化する理由は、魚体の表面にある色素胞の影響だったり、成長に伴う色・模様の変化だったり…色々な要素があります。
そして、魚体の色や模様の変化の一つの原因は「ストレス」であることも知られています。
では、魚たちが最もストレスを感じないのはどのような場合でしょうか?
誰もが容易に想像が付くのは「自然の川や池の中で、仲間たちと過ごしている時間」かと思います。自然環境の中で育つのが最もストレスが少ない…それは自然本来の姿ですので、その考え方は間違ってはいません。
しかし、魚たちは水槽の中で飼育する時間が長くなると、水槽の環境にも慣れてストレスが軽減し、魚が本来持つ美しい模様や色が出てくるようになります。これをアクアリウムの専門用語で「飼い込む」と言いますが、熱帯魚は飼い込むことでどんどん体の色が美しくなります。
つまり、水槽という限られた環境の中でも、魚のストレスは一定量は軽減できているということになります。
しかしながら、冒頭でも述べましたが、水槽と言う環境は魚たちに様々なストレスを与えやすい環境であることは否めません。
少しの環境の変化が魚にストレスを与え、その結果として魚体の体色や模様の変化として影響が現れてきます。
以下では私の管理する水槽で起こった、ストレスが原因による魚の体色・模様の変化の実例を紹介します。
水草をトリミングした際にグローライトテトラが色落ち…
まず最初の例は、小型カラシン科の「グローライトテトラ」に起こった体色の変化です。
水槽に植栽してある水草が大きく育ったので、トリミングによって水草をバッサリと切り戻したのですが、その直後にグローライトテトラの体色に変化が起こりました。
下の写真に通常時のグローライトテトラと、水草をトリミングした直後のグローライトテトラを載せています。
少し分かりにくいかもしれないのですが、水草をトリミングした後には、グローライトテトラの特徴でもあるオレンジ色のラインの色が薄くなってしまっていることがわかります。
また、体全体の色が少し白みがかったような色に変化しており、実際に目で確認すると明確に体色の変化が分かるような状況でした。
同じライトを使って撮影しているので、ライトの種類による色の変化はありません。
上記の通り、水草水槽で飼育しているグローライトテトラだったのですが、水草の中に隠れたりすることが多く、水草があることで一種の安心感を得ていたのだと思います。
その隠れ家となる水草が無くなってしまったことで、ストレス (特に緊張感) を受けたのだと思います。
また、トリミングの際に私の手とハサミが水槽内に入っていったので、見たことが無いもの (グローライトテトラにとっては外敵) が襲ってくるような衝動に駆られたことも想像できます。
水草のトリミングと言うのは水草水槽を管理している上では必ず必要な作業になるのですが、その作業によって熱帯魚は環境変化と言うストレスを受けることになります。
このグローライトテトラは、水草をトリミングしてから約1週間程度で、オレンジ色のラインが元の色に戻りました。
LEDライトの変更でカージナルテトラが色変化
次の例は水槽用LEDライトの変更で体色が一時的に変化してしまった「カージナルテトラ」となります。
このカージナルテトラは、元々は比較的弱い強度のLEDライトで飼育をしていました。
しかし、水草の育成速度を上げるためにLEDライトを強度の強いものに変更したところ、下の写真に示すように一時的ではありますが、お腹の赤色が発色しないという状況に陥りました。
LEDライトの変更によって、急激に水槽の明るさが上がり、その環境変化がストレスを与えていたものと考えられます。
体の小さな魚は、基本的に肉食魚の餌になるため、明るい状況というのは外敵に見つかりやすい状態になります。そのため、身の危険を感じるというストレスが加わってしまったのだと思われます。
ただし、毎日のように強いLEDライトを使用していると、そのLEDライトにも慣れてくれます。お腹の赤色が発色しないカージナルテトラも、LEDライトを変更した数日後には体色が元の色に改善されていました。
皆さんも、水槽用LEDライトを変化させたときには、同じような色変化が起こるかもしれません。しかし、徐々に慣れてくることで、魚体の色の劣化は改善していくものかと思います。
別水槽へ移動したレッドテトラがオレンジに変色
3つ目の例は、飼育水槽を移動したことでストレスを受け、体色の鮮やかさが損なわれてしまった「レッドテトラ」となります。
水槽のレイアウト変更に伴い、レッドテトラをもともと飼育していた60cm水槽から別の45cm水槽へ移して飼育したのですが、その直後にレッドテトラの体色が明確に落ちてしまいました。
下の写真の通り、もともとは鮮やかな赤色に近いような色をしていたのですが、水槽移動後には赤い色が落ちて茶色に近いような色に変化してしまいました。
別の水槽へ移動させるということは、住んでいる環境が全く別のものになりますので、かなり大きなストレスがかかるものと想像できます。
水草の種類も違いますし、一緒に泳いでいる魚たちも変わります。もちろん、水質も変化します。
別の水槽へ移し替えるという作業は、水槽で飼育している魚たちに取って最も大きなストレスの一つになります。
このレッドテトラについては、色が元の色に戻るまでに5日ほど要しました。
仲間がいなくなったレインボーフィッシュの模様が変化
最後の例は、仲間がいなくなってしまったことで色や模様が劇的に変化してしまったレインボーフィッシュです。
もともとレインボーフィッシュを同一水槽で3匹飼育していたのですが、1匹が水槽から飛び出し、もう1匹が原因不明の病気でお星様になってしまいました。
そして、レインボーフィッシュが水槽内に残り1匹になってしまいました。
その残った1匹のレインボーフィッシュの色と模様が、大きく変化したのです。
次の写真が実際の状態になりますが、上の写真がレインボーフィッシュが3匹いた時の写真、下の写真が残り一匹になってしまった時の写真になります。
明確に体色が変化していると共に、体側にある模様も薄れてしまっていることが分かるかと思います。
小型の魚は、群れを成して泳ぐことで安心感を得ますし、レインボーフィッシュは仲間同士で美しさを競い合うようなフィンスプレッディングを行うので、仲間がいないということは一種のストレスになるのだと考えられます。
このレインボーフィッシュの場合は、残り1匹になった後は、色や模様が回復することはありませんでした。
同一水槽に仲間を入れてあげないと、体の色が元に戻ることは無さそうです。
この記事の終わりに -体色が変化したらストレスを疑い飼育環境の改善を-
上で紹介した事例のように、熱帯魚の体色や模様が変化するということは、魚が一種のストレスを受けている事は間違いありません。
水槽内のレイアウトの変更、大きな物音、水槽の変更、混泳させる魚の種類など…我々が小さな変化だと思うことも、魚にとっては大きな変化になり得ます。
ただし、水槽の中で魚を飼育する以上は、これらの魚へのストレスをゼロにするのは不可能です。
当たり前のことですが、魚は自然の中で生活している状態が最も美しい色を発色します。
そのため、いかにストレスの無い環境を作り上げるかが、水槽内で熱帯魚の美しい色を出すための肝であると言えます。
最後になりますが、魚の体色の変化は日々の水槽管理の中でも意外と気付きやすい変化になります。小さな変化であっても、それは魚にとってのヘルプサインになっている可能性もあります。その変化に気づいたら、原因を追究し、水槽管理の改善を考えていきましょう!
美しく発色した熱帯魚、綺麗な模様が出ている熱帯魚は、水槽環境が良い証拠と言えるのだと思います。